体に合わせてパソコン台を作る

●机の高さを体に合わせる

筆者の考えでは、靴や服や家具は、人の体に合わせて作られるべきものである。
だが日本では、筆者のような考え方をする人間は少数派のようだ。
かつての帝国陸軍では、兵卒には決まったサイズの軍服しか与えられず、上官が「服に体を合わせろ!」と怒鳴りつけていたという。
現在でも女性のパンプスの多くは、23センチを中心に前後1センチのサイズしか作られていないと聞くし、日本で売られている仕事机やパソコン机は、どのメーカーのものも判で押したように高さ70センチ前後となっている。
身長も好みも人それぞれ違うのに、同じような高さの製品しか売られていないというのは、どういうことだろうか。

筆者は平均的な体格の日本人にとって、70センチは高すぎると考えている。
後で説明するように女性はもちろん、男性でも机はもっと低い方が体に優しい。
だが現状ではほとんどの人は値段と見栄えで机を選び、それに椅子の高さを合わせ、そこに座って机を使っている。
体を家具に合わせているのだ。それが日本の常識なのである。
筆者の場合、仕事柄毎日何時間もキーボードを叩いているので、それを置くための机(というよりパソコン台)が自分に合っているかどうかは、健康を左右する大問題である。常識はずれと言われようと、妥協はしたくない。
残念ながら既成品で好みの高さの机が見つからなかったため、自作することにした。
以下はその製作記である。

●先に椅子の高さを決める

「家具に体を合わせるのではなく、体に家具を合わせる」ためには、机の前にまず椅子の高さを決めなければならない。
体に合わせて椅子の高さを決め、その椅子に合わせて机の高さを決めるのである。
したがって椅子選びではまず「座面の高さが調整ができること」が条件になる。
幸い市販の仕事用・勉強用の椅子は多くが高さ調整可能となっているので、ここは問題ない。

椅子の高さは筆者の場合、背筋を伸ばして腰掛けた状態で、両足の踵(かかと)が床に着き、太腿(ふともも)が床と平行になるよう調節している。
両足の踵が床に着かないと、上体が安定しない。
太腿の裏は椅子の座面から浮き上がらず、かといって座面に食い込まないようにする。これはお尻から太腿までできるだけ広い面積で体重を支えるため。
長時間座ってキーを打ち続けるので、特定の箇所に体重がかかると、そこが痛くなってしまう。

椅子の高さが決まったら、今度はそれに合わせて机の高さを決める。
床に足をつけて椅子に座ったとき、両脇を締めて背筋が伸びる「正しい姿勢」を保つためには、机の上面がおへその高さか、それよりわずかに上ぐらいにあることが望ましい。
測定してみるとわかるが、そのためには机の上面の位置を太腿の上面から10センチ以内に抑える必要がある。
ここが広がると机の上面が高くなりすぎ、肘(ひじ)が左右に開いて上体が丸まった、悪い姿勢で作業することを強いられることになる。
とはいえ椅子を引いて座ることを考えると、太腿の上面と机の下面との間にはある程度の隙間が必要になる。
この隙間は、膝が机にぶつからない範囲で、できるだけ狭くすることが望ましい。経験上、3~4センチあれば十分だ。

日本の仕事机は机の天板の下に引き出しがついているのが定番だ。だが引き出しがあると必然的に机の上面と太腿上面の間隔は10センチを越えてしまう。
筆者の考えでは、天板の下に引き出しがついた机は全て、長時間の作業には向いていない。

適切な高さに調節した椅子に座り、メジャーで床から太腿上面までの高さを測定。それに35ミリを加えたものを机の天板の下面までの高さとする。これは机の脚の長さでもある。
天板の下面の高さに板の厚みを加えたものが、机の高さである。

●製作の実際

今回の机は天板に4本の脚をつけただけのシンプルな構造で、製作も簡単だ。
使うのは天板と4本の脚、それをつなぐ金具(座金)、あとは塗料のみ。
天板は、一般的な素材(杉やラワン材)と厚さ(20ミリ程度)の集成材ならホームセンターで売っている。
ただ毎日何時間も使う机なので質感にこだわり、厚さ30ミリのウォールナットの横はぎ材を使うことにした。

購入したのはネットで注文を受け付けていた「山根樫材工場」という広島の製材店。
板だけで3万円以上したが、こういう普通のDIY店では扱っていない素材を検索して見つけ、クリック一つで気軽に購入できるのもネット時代ならではで、便利になったものだと思う。

仕上げはオイルステイン。
「オスモカラー」の無色を二度塗りし、布で空拭きする。
塗料も質感優先で決めた、自然素材の製品である。
乾燥するまで思ったより時間がかかったが、きれいな仕上がりだ。
脚にはこだわらず、近所のホームセンターで売っていた金具つきのものとした。素材はパインの集成材。
こちらは1本1200円ほど。
買うときにホームセンターで、上で測って決めた高さに合うよう、脚をカットしてもらうこと。
店で買った材木であれば、1本につき1カットは無料でやってもらえるはずだ。
自分で切るのは大変だし、素人は正確にできないのでやめたほうがよい。

一通り天板に塗装したら、乾くのを待って脚とセットになっている座金を板に取り付ける。
買った座金には木ネジが付属していたが、鉄製だし短かすぎたので、長さのある真鍮製のネジを別に購入して差し替えた。
鉄のネジはドライバーの当たった部分から錆びてくることが多いので、筆者の場合、長く使いたい家具にはステレンレスや真鍮のネジを使っている。
ひっくり返した板に座金を配置し、ネジ穴にペンで印をつけ、印をつけた箇所に手動のドリルで穴を開ける。
穴は木ネジがしっかり収まるだけの長さが要るが、長くしすぎて裏側に突き抜けないよう気をつけること。
全部の穴が開いたら、ドライバーと木ネジで天板に座金を取り付ける。

木製の脚には最初からネジが埋め込まれており、座金に押し当てて手でくるくる回すだけで取り付けられる。
床を傷つけないよう、脚の底にはフェルトを張った。
ホームセンターで買った粘着材つきのフェルトのシートを、サークルカッターで脚の底に合わせてカットする。

脚をつけ、フェルトを張ったら、ひっくり返して完成。
木工作業はネジ穴を開けるだけ。塗装を含め、誰でもできる簡単な作業だ。
測定してみると、床から天板までの高さは63.5センチとなった。

 

●子供の勉強机も自作

 

娘が小学生になった際、同じやり方で勉強机を作ることにした。
あちこちの家具店を回って適当なデスクを探したのだが、既成品に納得のいくものが見当たらなかったのだ。
昔は子供用の学習机といえば高さ調節ができるものが一般的だったが、今は高さ調節できる机はほとんどない。
机の高さが下げられないと、高い机に合わせて椅子の脚を伸ばして使うしかない。
それでは足がぶらぶらしてしまい、体幹が安定せず、集中力が高まらない。
メーカー側は子供用机の高さ調節の必要性をわかっているはずだが、そうした製品が見当たらないのは、要は売れないからだろう。
それだけ一般の日本人は机についての意識が低いのだと思う。

また市販の学習机は、ほぼすべて天板の下に引き出しがついている。
上で説明したように、引き出しがあると椅子の座面から机の上面までの距離が遠くなってしまい、子供は胸の位置でノートを広げることになる。
結果、両肘が左右に広がり、背中が丸まり、顔はノートに覆いかぶさるような悪い姿勢をとることになる。
背中が丸まると肩こりの原因になるし、目とノートの距離が近くなりすぎると目に悪い。

小学校に入るまで、娘はもっぱらダイニングのテーブルをお絵かきや勉強に使っていた。
その様子を見ると、やはりノートに覆いかぶさるような姿勢になっていた。ダイニングの椅子の座面に対して、テーブルの天板の位置が高すぎたためだ。
悪い姿勢で勉強する習慣がつくと、体の発達にも、精神状態にも悪影響が出てしまう。
このままではいけないと考え、小学校に入学した機会に、体に合った机を用意することにしたのだ。

子供は成長するので、身長に合わせて時々、椅子と机の高さを調節することが必要となる。
椅子はいいとして、机の高さをどう調整するか。
この勉強机の場合は、脚の木材を娘の体に合わせてカットしたので、そのとき切り落とした端材をさらに5センチ幅で輪切りにして、取っておくことにした。
脚を長くする必要が出たら、カットした端材を接着剤で脚の底に貼り付ければよい。
5センチ幅に輪切りした端材が合計8個取れたので、10センチまではこの方法で伸ばせる。
それ以上長い脚が必要になったら、またホームセンターで新しい脚を購入する予定だ。

椅子については既成品で満足できる製品が見つかった。
家具メーカーのカリモクがベネッセと共同で開発した「集中力はぐくみチェア」
高さ調節ができ、背筋がまっすぐ伸びやすいよう座面や背もたれの形状を工夫したという、子供用の椅子である。
今回の椅子はキャスター付きではなかったが、キャスターが付いていても問題はない。両足が床に着いてさえいれば、足の力でしっかり椅子の位置を固定できるし、上体がふらつくこともない。

●書見台と卓上スタンド

完成した机は椅子、書見台とともにリビングに置いた。後日、卓上スタンドも用意した。
書見台は「丸善」扱いの木製のもの。
本を読むときに書見台を使うのは、背筋を伸ばした姿勢を維持するのによい習慣だ。
卓上スタンドは、
「2種類のLEDを組み合わせることで、早朝の光の色(色温度4100K)を再現した」
という「コイズミ スタンドライト PCL-216WT」という製品を選んだ。

風水では、
「朝の光は人を活性化させ、夕方の光は活動を低下させる」
「子供部屋やオフィスは、朝の光が当たる東向きのほうが、勉強や仕事の能率が上がる。夕方の光が当たる西側の部屋は、避けたほうがよい」
という。
実は脳科学の分野でも、同じ実験結果が出ている。
この機種の広告にも、
「日の出から1時間までの早朝の時間帯の光(色温度4000~4500K)が、子供たちの脳の発達を促す」
という脳科学者のコメントが載っていた。
風水という昔からの住まいの知恵に、最新科学のお墨付きがついたわけで、
「これは無視できないな」
と感じている。
幸い、娘も気に入ってくれたようだ。

●子供の姿勢がよくなった

製作した机を娘に使わせたところ、最初は、
「やりにくい」
を連発していた。
体を丸める悪い姿勢が身についてしまっていたのだろう。
数日すると新しい机に慣れてきたようで、何も言わなくなった。
同時にそれまで丸まっていた背中が、写真のように伸びてきた。
よくない姿勢のときの写真がないので見比べられないのだが、ほんの数日でかなりの変化である。
さらに字まできれいになってきた。

椅子の高さを両足の踵が床に着くまで下げたこと、椅子の座面と机の上面の高さの差を小さくしたことで、上体が安定し両肘が体側(たいそく)に近づくようになり、姿勢や動作が大きく変わったのだ。
予想していたことではあったが、改めて家具が心身に与える影響の大きさを痛感した。
おそらく今後、勉強の際の集中力の持続時間にも変化が現れてくるだろう。

●成長に合わせて高さを調節

勉強机製作から数年後、娘の身長が伸びたのに合わせて、椅子と机の高さを調整した。
この椅子の場合、座面を六角レンチで一度外して、ネジ穴一つ分、4センチほど位置を上にずらし、はめ直す。
高さを上げた位置で娘に座ってもらい、ちゃんと踵が床に着くかどうかを確認した。
実はこの作業は毎年一度行っている。
1年前に試したときは踵が床に着かなかったが、今回は着くことがわかったため、高さを変更することにしたものだ。

次は机の高さ調節である。
脚の底のフェルトを剥がし、サンドペーパーでこすってきれいにしてから、机を作ったときにとっておいた幅5センチの端材を木工用ボンドで接着。
脚を継ぎ足すことで机の上面の高さを上げた。

この机を作ったのは娘が小学校に入学したときで、学校の身体測定によれば当時の身長は111cmだった。
高さを上げたときにはそれが121cmに伸びていた。
それからすると、身長が10cm伸びたら椅子の高さを4cm上げればいいということになりそうだ。
ただこれには個人差もあるだろう。

日本では意識している人が少ないが、子供に体に合った家具を使わせ、正しい姿勢を体に覚えさせてやることは、健全な成長と精神の安定、また学力の向上にもつながる大切な問題である。
子供は自分では家具を選べないのだから、親が配慮しなくてはならない。
歯科医師たちの長年の啓蒙活動によって子供の歯を親が磨いてやることが普通になったように、子供たちがよい姿勢を保てるような机と椅子を親が考え、用意してやることもぜひ、当たり前になってほしいと思う。

 

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