近視の進行はトレーニングで止められる 前編

●近視の原因は眼軸の過伸長

近視の原因は眼軸(眼球の前後の長さ)の過伸長である
人間の眼球は生まれたときはまだ小さく、5歳ぐらいまで成長を続け、眼軸が伸びていく。
通常は5歳を過ぎると眼球の成長は止まり、眼軸長も安定する。
ところが何らかの原因で5歳以降になっても眼軸の伸びが止まらなかったり、一度成長が止まった眼軸がまた伸び始めると、その伸びが目の調節能力を超えた時点で網膜に焦点が合わなくなり、遠くのものがぼやけて見えるようになる。
この状態が近視である。
一度始まった近視は眼軸の伸長が止まるまで、多くが20代後半まで進行していく。

なぜ本来は止まるはずの眼球の成長が続いたり、再開してしまうのか。
明確な原因はわかっていないが、眼軸の伸長を司る遺伝子が特定されていることから、その遺伝子の発現と停止に影響を与えるエピジェネティクス上の環境要因があるものと推定されている。
近視は近業(近いところを見る作業)が多いほど発生しやすく、戸外での作業が多いほど発生しにくい。
戸外に多く室内に少ない波長360~400nmのバイオレットライトが、眼軸の過伸長を抑制することがわかっている。
網膜周辺部のデフォーカス(焦点が合わず像がぼやけた状態)を抑える作用のあるオルソケラトロジー用のコンタクトレンズを装着することで、眼軸の過伸長を30~40%程度抑えることができる。また、副交感神経遮断薬であるマイオピン」の点眼によって、眼軸の過伸長を50%以上抑えることができる
以上の三つの方法については、いずれもエビデンス(学術的な証拠)が認められている。
マイオピンもオルソケラトロジーレンズも眼科医院でなければ処方を受けられないが、日本の眼科医の多くは近視の抑制に消極的で、これらを扱っているクリニックは少ない。

近視の進行を防止する上で、より効果的なのは遠方凝視訓練である。
1日20~30分の遠方凝視訓練を3~5ヶ月継続することで、近視の進行をほぼ完全に止めることができる。このとき同時に1.0D~2.0Dの視力回復効果が得られる
このことは多くの症例で確かめられている。
しかし、なぜ遠方凝視訓練で近視の進行が止まり、視力が回復するのか、理由はわかっていない。

1.0D~2.0Dとは、近視でも視力が0.5あれば1.0以上への回復が見込めるが、0.3以下になってしまうと1.0への回復は難しい、というレベルである。
学童期に学校の視力検査などで視力の低下が判明したら、できるだけ早い時期に遠方凝視訓練を始めて近視の進行を止め、視力の回復を図ることが望ましい
遠方凝視訓練は、「日本視力訓練協会」系列の視力訓練センターや「日本アイトレーニング視快研」等で実施している
ただし費用は10万円~30万円と高額である。
昔から言い伝えられてきた近視回復法、「夜空の星を見つめる」ことで近視を治したという人も大勢いる。筆者の妻もその1人だ。
ただ自己流の遠方凝視訓練で近視の進行を止められるかどうかは、運次第である。時機を逃すと眼軸の伸長が進んでしまい、正常な視力への回復は不可能になる。

(以下、2020年5月に追記)
2020年5月28日の日経新聞朝刊によれば、中国でスタートアップベンチャーの「北京星辰万有科技(XingchenWanyou Technology)」が2019年に実用化した、VRゴーグルを用いた近視進行抑制トレーニングシステムが、中国政府の費用負担で200校ほどの小中学校に試験導入され、近視抑制効果が確認されたという。
報道が事実であれば、中国では今後、全国の小中学校で近視抑制トレーニングが取り入れられていくものと思われる。

一方の日本では、すでに40年以上にわたり民間企業による遠方凝視トーニングが行われ、近視抑制の実績を重ねてきたにも関わらず、医学界は頑なにトレーニングによる近視抑制の事実を否定し続けており、まともな検証すらしていない。
結果、ほとんどの家庭ではトレーニングによって近視の進行を止められることを知らず、近視の児童の割合は年を追って増え続けている

このまま推移すれば、学校保健の中に近視抑制トレーニングが採用された国々で子どもたちの近視が減る一方で、日本だけが「メガネっ子」だらけのまま、ということになりかねない。
医学界の無作為の罪は深い。

●娘の近視が始まった

筆者は強度の近視である。
小学3年(9歳)頃から悪くなり始め、すぐに眼鏡が必要なレベルになって、中学からはソフトコンタクトレンズを装用するようになった。その度数もどんどん上がり、大人になったときには両眼マイナス6.0~6.5Dになっていた。
この数値の意味については後述する。
筆者の眼が悪くなり始めたのは、大人向きの本を読み始めた時期と一致している。当時は暇さえあれば活字の小さな文庫本を続けて何時間も読んでいたから、それが原因だったのではないかと想像している。

筆者の小学生の娘も高学年になって大人用の本を読むようになり、中学受験の勉強も始めた。
「これはそろそろ危ないな」
と危惧していたら案の定、視力が低下し始めた。
小5の4月(10歳2か月)の身体測定で学校から「眼科で再検査するように」との連絡があり、近所の眼科クリニックで検査してみたところ、右目の視力が0.7、左目が1.0という軽度の近視になっていることがわかった。

成長期の子どもの近視は軽度だからと侮っていると、わずかな期間で大きく悪化してしまう。
それを知っていたので、妻に「毎月1度は眼科で視力を測定するように」と伝え、自分は以前に速読の講習で習った目の体操を娘と一緒に毎日やることにした。
この速読の講習では受講期間中に0.5Dほどの視力向上があったので、以来そこで習った目の体操を続けていたのだ。
その後、老眼の自覚症状が出てきた際、回数を増やしてみたところ、老眼が軽減され、進行も抑えられた印象があったので、「近視にも効果があるのではないか」と考え、試してみることにしたのである。

メニューは以下のようなものだ。
まず両手の人差し指を立てて、それを横にしたり縦にしたりして左右の指先を目で交互に見る。

縦、横、斜め(右上と左上を両方)、前後(右手側と左手側を両方)を、最初は各10往復、翌月は30往復、さらにその翌月は100往復行った。
運動の種類としては外眼筋群、つまり眼球を内側に向ける内側直筋、外側に向ける外側直筋など6つの筋肉と、内眼筋の一つであり、水晶体の厚さを変えて目のピントを前後に移動させている毛様体筋のトレーニングということになる。
以上に加えて目を大きく回す(外眼筋のストレッチ)、遠くのものを凝視する(毛様体筋のストレッチ)、目の回りをマッサージする、目に手を当てて温める(パーミング)といった動作を行う。
時間は全部で5分ほど。

最初、娘と2人でやっていたが、そのうち妻も加わるようになり、
「なんだか目の調子がいい気がする」
ということで、3人で何ヶ月か続けた。
だが1日5分程度の目の運動では、成長期の子どもの近視の進行を止めるには力不足であったようだ。
娘の近視はその後も徐々に進行し、半年間で右0.3、左0.7まで視力が低下してしまった。

●「視力訓練センター」入会

視力を測定していた眼科クリニックでは、月に1度の測定を3回ほど続けるうちに、
「視力検査は半年に1度でいいと思いますよ」
と婉曲に断られてしまった。
このクリニックに限らず、日本の眼科医の多くは「近視は病気ではなく、治療の対象ではない」と考えているようだ。これは我々一般人にとって大変残念なことである。

近視は日本国民が目の健康について心配する理由の中で、圧倒的多数を占めている。自分や自分の子が近視になって視力が落ち始めたら、誰もが眼科医に相談し、なんとかしてほしいと願う。
我が家のケースでも、こちらが子どもの近視進行にナーバスになっているのは明らかなのだから、せめて前述したような進行抑制効果が世界的に認められている点眼薬や、オルソケラトロジーレンズの装着といった近視対策の紹介ぐらい、してくれてもよさそうなものだ。それらが処方できるのは眼科医だけで、一般人にとって他に頼るあてはないのだから。

眼科医には見放されてしまった。
かといって放置すれば娘の視力がその後も際限なく低下していくことは明らかだった。手遅れになる前に何か手を打たなくてはならない。
調べた末、松戸市内にある「松戸視力訓練センター」に相談してみることにした。
このセンターは「日本視力訓練協会」グループの一つ。下の写真のようなトレーニングで近視からの回復を図る。紹介動画もある。

松戸視力訓練センターのサイトによればこのトレーニングは「毛様筋の機能回復を主眼として設定されたカリキュラム」であり、「方法は簡単で、一度近くを見てすばやく遠くに目を移して凝視するだけ」「衰えた毛様筋を鍛えて、水晶体がピントの合う範囲を広げようとする体操」とのことだ。
初回には無料の視力測定と診断を行い、視力回復訓練の適性を判定する。
実際のトレーニングは訓練用の器具やCDを購入した上で、自宅で毎日行う。
時間は片目12分ずつ、最後に5分ほど目や肩の体操が入り、合計で約30分。
2週間に1度、センターで視力を測定する。
視力回復までの期間は人によるが、日本視力訓練協会のサイトによればだいたい3~5ヶ月のようだ。

日本視力訓練協会、松戸視力訓練センターはともに40年以上の実績がある。
医学の世界では1990年代末以降、近視の原因の研究が進んでいるが、ここのトレーニング内容は昔ながらのもので、目新しいことは何もない。
だが松戸視力訓練センターの茂村所長によれば、ここでは既に多くの人が一定度の視力回復に成功しており、近視でも視力0.5以上あれば、訓練により確実に1.0以上に回復が見込めるという。
「当センターでは初回に視力測定を行い、近視がマイナス10.0D以上など、訓練しても視力回復が見込めないと判断した方はお断りしています。その代わり、受け入れた会員には責任をもって視力回復を保証します」
とのことだ。
実際に筆者が訪れたときも、センターの壁には訓練参加者の視力の変化を示すグラフが多数貼ってあり、所長が出まかせを言っているのではないことが実感できた。

我が家の娘の場合も、最初に視力測定と診断を受けた。
まずオートレフクラフトメーター(オートレフ)で球面度数他の数値を測定。
さらに裸眼視力、矯正視力、またピンホール板をつけての視力も測定。
裸眼視力は娘の場合、右0.2、左0.7と判定された。
オートレフで測定した右目の球面度数はマイナス2.25Dとなっており、
「これだと0.3の視力は出にくいでしょう」
とのこと。
だが矯正視力は左右とも1.2で、ピンホール板を通した視力も左右1.2あった。
結果、
「裸眼で0.2まで落ちてしまうと、普通はよくなっても0.8止まりです。ですが娘さんの場合、矯正視力、ピンホールとも良好なので、それ以上の視力回復が見込めます」
という判定だった。
所長は、
「視力0.2の右目は2週間で0.3、1ヶ月で0.4、2ヶ月で0.6となり、最終的には0.9~1.2に達するでしょう。0.7の左目は1.2以上に回復するはずです」
とセンターで2週間ごとに行う視力測定の結果を予想し、紙に書いて見せてくれた。

筆者はその場で娘を入会させることを決め、入会費と最初の2ヶ月の会費合わせて8万円ほどを納めた。
娘は渡された器具とCDを使ってトレーニングを始めた。
といっても時間は1日30分だし、基本的に「見るだけ」なので、それほど大変なものではない。

●向上した視力

2018年12月初め、「松戸視力訓練センター」で渡された器具を使っての視力回復訓練を始めて2週間が経ち、初回に続いて2回目の視力測定を行った。
1日30分の訓練2週間で本当に目が良くなっているのか、我が家ではまだ半信半疑だったが、初回の測定のときに娘の目の回復過程を予想していた茂村所長は、
「私はなんの心配もしていません」
と余裕の表情だった。

測定の結果は、右目が0.2→0.4、左目が0.7→0.8と、両眼とも視力の向上が見られた

事前の茂村所長のシミュレーションとほぼ一致している。違いは、右目の視力向上の幅が予想より大きかったことだ。
「左右の視力が違う場合、普通は良い方の目の視力の向上が先行するものですが、娘さんの場合は逆になりました。しかし概ね順調に回復しています」
とのこと。
不安そうだった娘にも笑顔が戻り、我が家は帰り道、近くの中華料理店で祝杯を上げた。

娘はその後も訓練を継続し、初回から2ヶ月弱が経過した2019年1月中旬の時点では右目が0.2→0.5、左目が0.7→1.0に、2月上旬には同0.6と1.2まで向上した。

左目については予想通り、訓練開始から2ヶ月で正視状態まで回復したことになる。
娘も「これまで見えなかった遠くの看板の字が見えるようになった」とうれしそうに話していた。

訓練開始から6ヶ月後の視力は右0.8、左1.2となった
娘の場合はこれが最終到達点で、その後もしばらく訓練を続けたものの、それ以上の視力向上はなかった。左目の視力回復は事前の予想通りとなったが、右目は若干予想より低い結果となった。
現在(2019年7月)は受験勉強による視力悪化の予防のため、週2日、1日2回に回数を減らして続けている。
メガネを必要としないレベルまで視力が回復したことに娘は安堵しているが、父親としては「視力低下がわかった時点ですぐに訓練を始めていれば、両目とも1.2まで回復させられたはず」と悔やんでいる。

●現在の学説では訓練による近視抑制を説明できない

ここまで説明してきたようなトレーニングにより近視が回復するということは実は、近視進行のメカニズムについての現在の学説では説明できない

筆者が子どもの頃、眼科の世界では、
「近いところを見ることを続けると、水晶体の厚さを調節している毛様体が異常に緊張して、一時的に近視の状態になる。これを偽近視、仮性近視と呼び、トレーニングや点眼治療などで回復が期待できる」
とされていた。
だが後述するように、現在では近視は初期の段階から眼軸の伸長による軸性近視であると考えられるようになっており、仮性近視、屈折性近視という概念そのものが否定されている

眼軸の伸長とは、わかりやすくいえば「眼球が前後方向に成長して伸びること」である。
伸びてしまった身長をトレーニングで縮めることが困難であるように、伸びてしまった目の長さを遠方凝視トレーニングで縮めることができるとは考えにくい。
このため眼科医の多くはトレーニングによる視力回復について否定的だ。

「公益社団法人 日本眼科医会」のサイトでも、
「偽近視の状態が本当にあるかどうかについては、賛否両論があります。また点眼薬も、2~3か月治療して視力が出ないようなら続けても意味はありません。あまり根拠のある治療法ではないので期待しない方がよいと思います。点眼薬をつけて効果が出ない場合にはメガネを処方してもらったほうがよいでしょう。」
と述べられている。
この突き放した書き方からも、眼科医が近視を治療の対象とみなしていないことが伺われる。

仮性近視理論でいう「毛様体が異常に緊張して水晶体をふくらませ続けている状態」とは、おそらく「毛様体筋がつった」状態をイメージしているのだろう。だが本当に毛様体筋がつったりしたら、目が痙攣してしまってどこにも焦点を合わせられなくなり、大変な騒ぎだろう。
それに近い症状は実際に存在する。

『視覚の科学 第33巻4号』に掲載されていた論文「屈折矯正における調節機能の役割 ――臨床から学んだ眼精疲労の正体――(梶田雅義)」にそうしたケースが紹介されていた。これはオートレフで測定する眼球の屈折率の経時的変動を使い、毛様体筋の疲労度を測定する研究についてのレポートである。

人が一定の距離にある物体を注視しているときの屈折値はリズミカルに揺れ動いている。これを調節微動という。調節微動は0.6Hz 未満のゆっくりとした低周波数成分と、1.0~2.3Hz の比較的速い高周波数成分(HFC)に分けられる。
低周波は目が焦点を合わせ続けるための調節による動きで、正常なもの。一方HFCは毛様体筋の震え(けいれん)によって生じたもので、健常な毛様体筋では一定範囲内にあるが、疲労した毛様体筋では最初から異常に高い値を示したり、わずかな調節負荷をかけただけで急上昇する。
どの距離の視標に対してもHFC値が高い状態を「調節緊張症」と呼び、眼の疲労の訴えや頭痛、肩こり、一過性の近視を伴う。ひどい状態になると眼を針で刺されるような鋭い痛みを訴え、「調節けいれん」と称される。

こうした症状は近視に対する過矯正の眼鏡の使用や、連続的なPC作業などによって引き起こされ、目に合った眼鏡の使用や毛様体筋の弛緩薬の使用で収まる。
これが「毛様体筋が疲労した状態」だ。初期の近視などとは全く異なる、あきらかに病的な状態である。

視力訓練センターにかぎらず、近視回復効果を謳う器具や訓練は、「毛様筋の機能低下による仮性近視からの回復」を前面に掲げている場合が多い。だが毛様体筋の異常緊張と近視の初期段階が全く別の状態だとすれば、そういった器具や訓練の類の効能書きにはなんの根拠もないことになる。

娘を視力訓練センターに連れていった時点で、筆者はネット上で調べてそういった事情は把握していた。
ではなぜそんな医学的根拠不明の訓練をさせるセンターに高いお金を払って娘を入会させたかというと、別に藁(わら)にもすがる思いからではない。
「おそらく言われた通り近視が回復するだろう」
と考えたからである。

所長自ら言っていたように、入会した人たちが言った通りに視力回復していなかったら、同じ場所で40年も営業を続けていられないだろう。まして今はクチコミが支配するネット時代である。入会時に何万円も取っておいて効果がなかったら、ネット中に罵詈雑言が溢れかえっているはずだ。
とりわけ「最初の2週間でこれだけ向上し、1ヶ月でこれだけ、2ヶ月ではこれだけ」という視力回復過程の予想などは、過去に大勢の入会者の視力回復を目にしてきた実績と自信がなければ口にできるものではない。
つまり筆者は、センターの過去の実績や所長の人柄を見て、
「仮性近視など存在しなくとも、昔ながらの遠方を凝視するだけの訓練でも、きちんと行なえば近視は回復する」
と信じたということだ。

そして現実に娘の近視はトレーニングで回復している。
現実と学説が食い違うのなら、訂正すべきは学説のほう
である。

●視力回復訓練の実際

筆者の娘が「松戸視力訓練センター」で指導された視力回復トレーニングは、写真のように八角形の形をした用具を使うものだ。

訓練では、器具と一緒に渡されたCDから音楽とともに流れてくる女性の声の指示に従って、器具の点灯した箇所に置かれたランドルト環(後述)と自分の手に貼ったシールを交互に見つめる。
その繰り返しだ。

実際にはこれに加えて様々な細かな指示や調整がある。
一例を挙げるなら、訓練の際に凸レンズを入れたメガネを装着し、そのメガネの度数を視力や訓練の進度に応じて最適なものに変えていったり、器具にはめるランドルト環も進度に応じて大きさを変えていく、といったことだ。メガネの度数や環の大きさは訓練の効果に大きく影響するという。
筆者は訓練中の指示や調整の全てを記録しているが、それらは日本視力訓練協会や茂村所長本人が長年の試行錯誤の中から見つけ出した、訓練効果を高めるための貴重なノウハウであり、「飯のタネ」であって、ここに開示することは適当ではないと考える。

「松戸視力訓練センター」で使っている訓練用の器具は、「東京視力回復センター」がアマゾンで販売している「アングルビジョンセット」という機器とほぼ同じもののようだ。おそらく東京視力回復センターは、日本視力訓練協会から分派した組織なのだろう。
茂村所長の話によれば、東京視力回復センターの視力回復までの費用は松戸視力訓練センターよりも高く、30万円台とのことだった。
とはいえ松戸のほうも6ヶ月通ったとして18万円ほどかかるので、安いとはとても言えない。2回目以降は月に2度、視力測定を行うだけなのだ。
しかし多くの会員を訓練してきた経験から得られたノウハウにはそれだけの対価を払う価値があると、筆者は考えている。
機器自体の原価は安いものだろう。だが訓練のポイントを知らない素人が適当に使って、本来の効果が得られないまま近視が進行してしまったら、取り返しがつかなくなってしまう。
実際、筆者が我流で行った遠方凝視を含む目の体操では、娘の近視の進行を止めることができなかった。

●訓練による近視回復効果の限界

日本視力訓練協会系列以外にも、最近では「日本アイトレーニング視快研」など、新手の視力回復トレーニングセンターが各地に登場している。
アイトレーニング視快研の場合、サイトを見るとそのトレーニング内容は、
「独自開発した、遠近の焦点距離を瞬間的に切り替えることのできる『遠近瞬間切替視トレーニング装置』を使用し、1回につき15分間程度集中して見る」
となっている。
トレーニング器具は違っても、
「近いところを見てから遠いところを見て、凝視する」
というトレーニングの基本は視力訓練センターと変わらないようだ。
サイトでは視力訓練センターと同じく「毛様体筋の機能を向上させて視力を回復させる」「子供の視力は仮性近視と呼ばれる0.7以上の視力なら元に戻る可能性は高い」などと謳っており、医学的根拠が曖昧という点でも同様だ。

視力訓練センターの場合、「近視でも視力0.5以上なら1.0以上に回復できる」「視力0.2だと普通は回復しても0.8程度」としているが、アイトレーニングの場合も視力の回復幅は全く同じである。
「株式会社アイトレーニング」の子供用視力回復トレーニング教材のサイトには、「視力が0.2まで低下し、検査結果から0.8以上まで回復する可能性がなくなっていた」といった記述があり、事例紹介を見ても「0.2~0.3だった視力が1.0程度に回復した」という声ばかり。
おそらくこの程度が目の訓練による回復の限界なのだろう。互いに競合関係にある組織が同じレベルの限界を認めていることが、逆に訓練の信用度を高めている印象がある。

総合するとトレーニングによる近視の回復幅は球面度数にして1.0~2.0D、眼軸長にして1mm未満というところだ。
正常より5mm以上長くなることもある眼軸伸長に比べると限定的ではあるが、1mm未満という狭い範囲内でなら、眼軸長伸長による近視をトレーニングで矯正できるということになる。

●眼軸伸長はトレーニングで止められる

ただこれらのセンターが主張しているように毛様体筋の鍛錬や機能回復によって一時的に視力を回復させたとしても、眼軸長の伸長が止まっていなければ、訓練終了後には再び近視の進行が始まるはずだ。訓練期間が数ヶ月にわたるとすれば、訓練を続けている間にもトレーニング効果より眼軸伸長の影響が大きくなり、近視の進行が再開する可能性もある。
実際はどうなのか。

日本視力訓練協会サイトの「視力回復Q&A」コーナーに、
「視力回復トレーニングをやめると視力はまた下がってしまうのですか?」
という質問項目がある。
それに対する回答は、
「この視力回復トレーニングを完全に止め、目に悪い環境(近くばかりを見るような環境)にいますと元に戻る可能性があります」
「回復した視力が安定しないような時や、小学生のような成長期の場合は2~3日に1回くらいの視力回復トレーニングによって視力の再低下を防止します」
「また、軽い近視で完全に正常視力に回復した場合は、放置しても再低下しないケースも多くあります」
という、いたって常識的なものだった。

筆者が調べた限りでは、視力回復訓練中に視力が低下してきたとか、訓練終了後にリバウンドが起きたという声は特になかった。
もちろん上の回答にあるように、視力回復後も環境次第で視力は低下するわけだが、それは訓練をしなかった場合も同じことだろう。
体験者の声を素直に受け取るなら、訓練で回復した視力は、最初から視力低下がなかった場合と同じく、ナチュラルなもののように思われる。

訓練前に進行しつつあった子どもの近視が訓練によって回復し、訓練終了後に近視の進行が止まったとすれば、それは訓練により眼軸の伸長が止まったことを意味している。
それが事実であるなら、現在の軸外収差説(後述)における、眼軸伸長をストップさせるトリガーについての仮説の訂正を迫るものといえる。

「近視の進行はトレーニングで止められる 中編」

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