SRS速読法体験記 前編

●SRSとは

SRS(Super Reading System)は医師の栗田昌裕博士が開発した、速読を中心とする能力開発法である。
栗田博士は東京大学大学院で数学を専攻した後、同大の医学部に転じて医学・薬学の博士号を取得。米国カリフォルニア大学にも留学している。内科、薬理学、病理学から心理学、数学まで講義し、また座禅、ヨガ、気功などを経験し、東洋医学にも造詣が深く、中国の医大の名誉教授でもある。渡り蝶の研究家としても知られ、著書は童話を含む150冊以上。
交通事故に遭って入院したのを機に速読を鍛錬し、1分間に200ページを読んでその内容についての質問に答えるという、速読一級の試験に日本で最初に合格。現在は群馬県の大学で学長を務める傍ら、自ら設立したSRS研究所の所長として講演や講習を続けている(以上はSRS研究所公式サイトによる)。

筆者は友人に誘われ、「速読法初級5回講習」というSRSのセミナーに参加、栗田先生の指導を受けたことがある。もう10年以上も前の話だ。
セミナーでは栗田先生開発による「速読を入口として分散・並列・統合処理能力をマスターするための180ステップからなる指導カリキュラム」の最初の一部を受講した。
SRSは一種の脳内革命をめざすもので、最終的なハードルは高い。それはこれまでの受講者が過去20数年で6万人を越えるということなのに、未だに栗田先生が「唯一の速読マスター」らしいことからも想像できるだろう。
結果を先に言うと筆者の場合も、遺憾ながら脳の革命には至らなかったのだが、それでも受講中は最速で本1冊を15分程度で読み終え、およその内容を覚えていられるぐらいにはなったし、視力がよくなったり驚くほどリアルな夢を見るといった体験もした。
講習の中で教わった目の運動などは、今でも毎日やっている。

●初体験尽くしの初回講習

筆者が受講した「速読法初級5回講習」は東京都文京区の千駄木にある会場で行われ、受講者は60人。初回が4月7日で、その後1週間おきに3回まで行い、途中3週間の休みを挟んで残り2回を行った。
時間は初回が9時から21時までの12時間、2回目以降は9時から19時30分までの10時間半で、どちらも途中30分の昼休みが入る。
毎回、朝から晩まで続く長時間のセミナーなのだが、中でも一番大変だったのが初回だ。
身長・体重・握力といった一般的な身体計測に始まり、迷路や計算、読書のスピード測定、さらには「夢アンケート」のような少し変わった項目まで、膨大な量の質問に答えてデータシートに記入しなくてはならない。
データを取る理由もわからず、「握力が速読とどう関係があるんだ?」などと首をひねりながら、朝9時から夕方4時まで7時間にもわたって指示に従って測定し、あるいは思い出し、記入し続けた。これはかなりのストレスで、中には初日でリタイアしてしまう人もいるという。
もっとも講師である栗田先生はこの間11時間立ち続け、話し続けていたのだから、受講生よりはるかに大変だったはずだ。

以下はこのときのメニューの一部である。
「閉眼明度確認」は目を閉じ、手で隠して10秒、手を離して10秒数え、見えた色や模様や動きの違いを感じとるというもの。目を閉じた状態で頭の上で手を回し、視野に生じる変化を感じとる「気感チェック」や、手で音を聞き分けるという「音振動チェック」、目をつぶって光の球を思い描き、それをイメージの中で動かしたり、体のあちこちに当てるという「心象操作」、種から芽が出て大木になるまでを1分間でイメージする「樹木法」という訓練もあった。
「足姿勢チェック」は、目をつぶって両足の間隔が10センチになるように立ち、左右のズレや足の開き方を調べるというもの。
首や腰がどれくらいまで回るか柔軟度をチェックし、指回し運動をやってから再度同じチェックをして、変化をみるというのもあったし、目を閉じて片足で何秒立っていられるかも左右それぞれ測定した。
それらがどう速読に関係するのか、受講者的には意味不明である。

「指回し運動」は、両手の指と指を合わせ、そのうち1組の指をお互いの回りにぐるぐる回すというもの。右回り、左回り両方を各10回ずつ、親指から小指までの5組について行う。回す指同士は触れないように気をつけ、両方の指の第一関節が重なるぐらいの位置で回す。
「基本共鳴呼吸法」は、空中に直径1メートルほどの円が浮かんでいる様を思い描き、二本の指で想像上の円をなぞって6秒かけて円の頂上まで持ち上げていき、そうしながら「気分が高揚していく」と想像しつつ息を吸い、次に指で円をなぞって6秒かけて底辺まで下げてゆきながら「気分が鎮静していく」と想像しつつ息を吐いていくというもの。左右セットで行い、その間に目は指の動きをしっかり捉えるようにする。
その他、左右の人差し指を30センチ間隔で「左右」「上下」「斜め」「前後」に立て、30秒間全速で交互に見るという眼球の運動、指先で∞の字をなぞり、それを次第に大きくしていって、周辺視野を使って指の動きを捉える「8字眼球訓練」、掌をじっと見つめて何が見えるか感じとる「手掌凝視訓練」、地図をじっと見つめて全体の輪郭や形状、模様を視覚的に捉える「地図凝視訓練」などがあった。
またこれらの訓練を行った後、それを短時間で思い起こす「想起確認」もセットで行う。

「数唱」は、声に出して数を数える代わりに、目をつぶって1~100の数字が書かれたカレンダーをイメージし、数を数えるという訓練。声で数えるときの3倍のスピードで行うよう指示されるのだが、全くついていけない。心の中で数字がリアルに描けていれば紙を読むのと同じ速度で数えられる理屈だが、筆者の場合はうまくイメージすることができず、声に出して数える場合よりかえって遅くなってしまった。
「観色度チェック」は黒で印刷してある図を見て、どんな色がついていると感じるかという訓練。筆者の場合、「黒い図に色が見えるとしたら、目がおかしいということじゃないか。なぜそんな変なことを聞くんだろう」などと思いながら見ていたので、当然ながら何の色も見えなかった。
後で聞くと、この観色度チェックではいろいろな色が見えるほどポイントが高く、その点数も速読の進歩の度合いと関連しているとのことだった。

体を左右に倒した状態で木の絵を描くという訓練(姿勢が心象に及ぼす影響を計測するのだという)もあれば、超能力の世界でいうESPカードのようなものを使った「共鳴試行」と呼ばれる訓練もあった。
これは受講者が渡されたカードに絵を描いたり、図形や文字を選んだりして、その内容が前後左右斜めの受講者とどれぐらい一致しているか調べるというもの。「自分と回りの人間との間で共鳴力が働いていることを自覚し、潜在意識の活性化に役立てることが目的」とのことである。
ここまで来ると常識人はかなり引くのではないかと思うが、栗田先生によれば「速読法の訓練は共鳴力の訓練」であり、「共鳴」こそが個々人の進歩を生み出す原動力であるという。先生は独自の理論に基づき、こうした集団による訓練体系を開発したわけである。このとき使うカードでは米国特許も取得したとのこと。

個人的には共鳴という現象には、「気」が介在しているように感じた。
講習の途中、タイに旅行に行って島でシュノーケリングした。ガイドにもらったパンを手に海に入ると、大量の魚が集まってくる。パンを投げ入れると、奪い合いで大変な騒ぎだ。
何気なく泳いでいるように見えても、魚は人間が自分にとって有害か有益かを常に監視しており、個人の識別もできるのだ。危険や餌の存在に対しては一匹一匹が独自に気づくのではなく、群れとして一斉に気づくようだ。そのときは魚同士の間で何らかの形での情報交換が行われている。それが共鳴ということであり、おそらく人間にも同じような現象が存在するのだろう。
SRSでは、離れた場所にいる人同士が同じ時間に同じような体験をするという共時性(シンクロニシティ 心理学者のユングが提唱した概念)も共鳴の一種であると考え、その発現には潜在意識の深い部分が関わっているとする。

最初に記入するデータの中には「過去の不思議体験」「感動体験」や、生まれてから一番早い時期の記憶を訊かれる「最古体験想起」といった項目もあった。
「不思議・感動体験回数の多い人は共鳴現象が起こりやすく、統計的に速読の進歩が早い」ということだ。
しかし「過去半年で何回不思議な体験をしたか」と聞かれ、即座に答えられる人は希だろう。普段から数字における厳密さを要求されている銀行員などに0と書く人が多く、女子大生の数字が高めであるということなのだが、無理もない。実は筆者も0と答えた。ところが速読の進歩が早いのは女子大生のほうなのである。SRSには「脳ではなく心で。客観より主観で」という言葉もあり、客観性・厳密性を重んじる人は進歩しにくく、主観的判断を以て良しとする人の方が上達しやすいというのだ。日本の学校や企業で重んじられる価値観とは、真逆の感性が求められるらしい。

こういった素人目には一風変わった訓練の前後に計算や迷路、読書のスピードチェックを行い、向上度を測定する。
訓練の効果はめざましかった。
筆者の場合、迷路を解くスピードは1日目の最初と最後だけでほぼ2倍になり、計算速度も1日で71問から88問(3回目)に上がった。
慣れの問題もあるとは思うが、それにしても普通では考えられないような上達ぶりだ。初日の後半は長時間のセミナーで疲れていたので、常識的に考えればむしろ点数は下がるはずである。
計算スピードはその後も毎回テストされたのだが、好調な時には一人の自分が答えを書いている間に別な自分が次の問題を計算しているような感覚があった。それがSRSがめざす「分散処理」という脳の新しい使い方のようだ。迷路と計算のどちらも、ペンを持つ右手が視野を邪魔していると感じ、それがなければさらに速くなりそうに感じた。
読書のスピードも初日のうちに1分間980字から2500字と2倍を越えた。ただしこれは目で文字を追う速度を上げていっただけで、最後の方になると文章の意味など全く汲み取れず、字面を追っているだけという状態だった。「これでいいのかな」と首をひねっていたのだが、その後で先生から「それでかまわない」という話を聞いた。
文字を目で追うスピードが上がったのはセミナーの場でテンションが上がっていたため(SRSではこれを「高揚効果」と呼ぶ)とも思えたが、セミナー初回の翌日に自分で1分間速読を行い、字数を測ってみたところ、最高速から2割減(2000字)程度はキープしていた。

●講習後の大量の宿題

講習の後、受講者には次の受講日までに日々こなすべき課題が与えられる。
たとえば以下のようなものだ。

*指回し運動(15分)
・言霊(言葉を唱え、呼吸に合わせて指回し運動をする。各指、呼気10秒+吸気10秒程度 1分40秒 200回程度)
1指(さやか-さわやか)、2指(まどか-まろやか)、3指(のどか-のびやか)、4指(はるか-はれやか)、5指(ほのか-ほのぼの)
・回数挑戦(各指の右回し+左回し各1分、間隔5秒、計11分 1200回程度)
・中指回数(1分)
・薬指回数(1分)
・二重指回し(左右の指を1本ずつではなく2本ずつ、全ての組合わせで回す。全部で10の組み合わせがある。各右回し+左回し10回として、計200回 5分程度)

*呼吸法(15分)
・基本(高揚)(1分)
・反対(沈静)(1分)
・左右(海、鳥、魚)(1分)
・右左(風、草、花びら)(1分)
・太平洋(1分)
・日と月(1分)
・以上の想起 2分
・共鳴
単純1 竜巻とスコール(1分)
単純2 落雷と昇竜(1分)
単純3 左右/青(1分)
単純4 右左/赤(1分)
以上を四つ、心の舞台に同時に置く(2分)

*眼球訓練(13分)
・眼球運動(左右、上下、斜め)(2分 想起40秒)
・8字運動(小、大、加速、周辺)(2分 想起40秒)
・掌凝視
空間(輪郭・凹凸・色彩・陰影・模様)(1分)
物質(皮膚、筋肉、骨、血管、神経、重さ、柔らかさ、温かさ)(1分)
時間(進化、過去、現在、未来)(3分)
・最古体験想起(1分)

*末梢訓練(10分)
・嚥下(1分)
・足返し(1分)
・足開閉(1分)
・小指曲げ(2パターン、左右各10回 計40回、2分)
・光順唱(1-100)
・光逆唱(100-1)

*イメージ訓練(15分)
・樹木法(1分)
・左右移動(1分)
・前後移動(1分)
・並列移動 2人以上 (1分)
・拡大縮小(1分)
・周辺視野(6分)
・エッジビュー(30秒×4コーナー 2分)

*速読訓練(10分)
・1行読み(1分)
・1行往復読み(1分)
・2行読み(1分)
・2行往復読み(1分)
・3行往復読み(1分)
・2行往復読み線付(1分)
・3行以上読み(1分)
・3行以上ワナワナ(わかる、なるほど)リーディング(1分)

以上、計1時間23分

*その他
・新聞2行読み・視点移動1回 (20字×40行程度×10段×12枚程度=10万字 5000字/分として20分)
・閉眼10分間回し(1~5指、右回りと左回りを各1分)
・昨日の想起(30分程度)
・早めくり1日1冊(1ページ2秒、4秒ごとにめくり、1分で30ページ 1冊300ページで10分)
・速読週3冊(1ページ700字、5000字/分として、1分7ページ、1冊300ページで40分強 1日当たり20分)
・理解力テスト(トータル3分30秒)
1000字読み 雑誌見開き記事2分
2000字読み 雑誌見開き記事1分
4000字読み 雑誌見開き記事30秒

以上、計1時間33分30秒

*日常生活の中で行うもの
・ダブルリーディング(広告・看板などを使い、同時に二つの文章を読み取る)
・動体凝視(木の葉・サッカー・群衆など動くものを周辺視野で捉え続ける)
・街並み丸ごとインプット(5分間歩行後)
・八原理(拡散-集約、共鳴-干渉、並列-直列、動的-静的)の日常生活での応用
(たとえば「拡散-集約」なら、「いろいろなアイデアを出し、一つに決める」、「共鳴-干渉」なら、「みんなで盛り上がり、その後に話をまとめる」といった作業)
・昨日一日の出来事を映像的に、加速しながら想起する
・「今週のちょっといい話」を集める
・見た夢の内容をメモする
・家から半径100メートル以内の樹木の名前を覚えて言えるようにする
・過去に読んだ本の題名を100冊以上書き出す

以上は一例である。
自分がSRSの講習を受けた人以外は、こうやって書かれてもわけがわからないだろう。
実のところ筆者自身もどんな訓練だったか覚えていないものもあるが、とにかく講習中、与えられた大量の宿題メニューを毎日こなすのは大変だった。
たとえば「昨日一日の出来事を映像的に、加速しながら想起する」という宿題がある。
筆者は普段は人一倍忘れやすい方なのだが、受講の翌日この宿題をやってみたところ、電車内でのちょっとした出来事から道ですれちがった人の表情まで事細かに覚えており、自分で驚いた。受講の影響としか思えない。
ただ同時に指示された「思い出しの加速」は難しく、一日分の出来事を思い出すのに1時間半かかってしまった。これも毎日やらなければいけない宿題の一つなのである。
講習中は仕事以外の全ての時間をSRSの宿題に使い、それでも全メニューを終えるにはまるで足りなかったという記憶がある。

●講習で得た経験

初回の講習の後はどっと疲れが出て、帰宅後復習もできずにすぐに寝てしまった。
翌日はいつもより短い睡眠時間で、夜明けとともに目が覚めた。目覚めた時点で、かなりストーリー性の高い夢を見ており、宿題として夢を記録するように言われていたので、これをメモした。目覚めの気分は爽快で、高揚した気分がその日一日続いた。
また道を歩くと、木々の新芽や鉢植えの花が非常に美しく見えた。どうやらどちらもSRS講習の影響らしい。その後も講習中は景色の見え方が鮮やかに感じ、花や風景の美しさに感銘を受けることが多かった。
受講後の精神的高揚も毎回続き、日曜日に講習を受けると火曜日ぐらいまで気分が乗っていた。道を歩いていて、ふと鼻歌を歌っている自分に気がついてびっくりしたこともある。そういった精神面での変化については受講時には何も示唆がなかったので、筆者的には愉快な驚きだった。

講習のステップが進むにつれ、宿題で指回し運動や呼吸法を行うと、みぞおちのあたりに暖かい気を感じるようになってきた。
当時の筆者は物書きの常で、昼寝て夜起きるような生活を送っていたのだが、講習中はなぜか早寝早起きになり、1日5時間ほどしか寝ていないのに眠くてもならず、寝覚めも気分も体調も良かった。
SRSでは「夢は潜在意識の浅い部分を表している」と説く。どんな夢を見たかは毎日メモを取って講習時に報告するよう指示されるのだが、講習が進むにつれ夢の具体性やストーリー性が増し、覚えている夢が長くなっていった。一度などはあまりにリアルで感動的な夢を見たため、夢を見ながら泣いてしまい、泣きながら目が醒めた。そこでメモを取って寝直したら、引き続き、前の夢のストーリーの後日談と思しき夢を見た。
それまでも小説のネタにできないかと思い、夢のメモを取ったりしたことはあったのだが(物書きなら一度はやったことがあるだろう)、目が覚めてしばらくすると見た夢の内容などほとんど覚えておらず、メモを見直しても支離滅裂で何を言っているのかさっぱりわからないのが常だった。ところがこのときはメモを見ただけで夢のストーリーを完璧に思い出すことができた。
そんな経験はSRSの講習を受けていたときだけである。

初回に質問された不思議体験や感動体験は、その後も宿題として「何かそういったことがありましたか」と訊かれ続け、「最古体験想起」についてもより早い時期の記憶を思い出すことを求められ、講習中ずっと思い出す努力を続けた。それとは別に「文字を習う以前の記憶」もできるだけ多く思い出すよう指示された。
筆者の場合、初回に思い出したときより古い記憶を思い出すことは結局できなかった。SRSでは「深層意識は幼少の記憶に直結している」とし、古い記憶を呼び覚ますことを「心に光が差す」と呼ぶのだが、残念ながら筆者の心の最深層には最後まで光が差さなかったようだ。

その他の変化として、視力の向上がある。筆者は極度の近視(0.1以下)で、当時マイナス6.5というコンタクトレンズを使っていたのだが、5回の講習が終了すると視力が向上した自覚があり、新たなコンタクトレンズ購入の際に視力測定をしてみた。結果、一段度数を下げてマイナス6.0のレンズを使うことになった。

最終第5回の講習では、呼吸法やイメージ訓練の途中に催眠状態に入ってしまったようで、半分眠りながら薄靄の中を移動しているように感じたり、意識が朦朧とする中で先生の声が響いてくる。以前に催眠療法で深い催眠状態に入ったときと同じ感覚だった。トレーニングの切れ目で催眠状態が途切れたようで、眠気が消えた。
まあ、「だからなんだ?」と言われても答えられないが、不思議な経験ではあった。

日常生活でもとにかく多読、速読を行うようにということだったので、講習中は意識して新聞、雑誌、書籍を大量に読み飛ばしていた。
筆者の場合、最も頻繁に本の数を読んでいたのが小学校高学年から中学2年ぐらいまで、読む速度もその頃が一番速かった。受験や仕事のために読書量が減るにつれ、読書速度も落ちていたのだが、速読の講習を受け多読を心がけることで、錆びついていた過去の読書スピードが戻ってきたようだ。
腕時計をつけて書店に入って、時間を測りつつ立ち読みしたりもした。図書館も使ったが、立ち読みのほうが店員から視線のプレッシャーがかかるので、「速く読まねば」という気持ちになってテンションが高まる。結果、15分ほどで1冊読み終え、かつ内容も一通り覚えていられるようになった(書店には申し訳なかったが)。もっとも先生からは、「本屋では普段行かないコーナーに行き、1冊2分でめくり終えるように」と言われており、それもやってみたが、内容はさっぱり頭に入ってこなかった。

SRSでは「地上から発射したロケットが地球脱出速度に達すれば宇宙へ向かうことができ、達しなければまた地上に落ちてきてしまうように、速読を身につけるためには一定以上の読書スピードまで加速することが不可欠」という。
筆者の場合、講習での測定数値としては、途中伸び悩みはあったものの、第8ステップ(4日目)までで1分間1万字(初回比で10倍)の入力を達成している。
ただしこれはあくまで入力速度、つまり「わからなくてかまわないので、速く読みなさい」と指示されてがんばって速く読んだ結果であって、内容の理解度とは別の話だ。決して「ゆっくり読んだときと同じ理解度で10倍の速さで読めるようになった」ということではない。
SRS速読法で「速読10倍を達成」と称しているのは、この入力速度の初回比を指している。この点は注意が必要だろう。

「SRS速読法体験記 後編」に続く

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