「肩こり」の原因は「肩を動かさないこと」である

●「肩こり」とは何か

肩こりとは、僧帽筋(そうぼうきん)が血行不良となった状態である。
僧帽筋とは首から両肩、背中にかけて広がっている、分厚く大きな筋肉だ。
以前には「僧帽筋を中心とした肩まわりの筋肉群の血行不良」と言っていたのだが、覚えにくいので今は「僧帽筋」と略すようにしている。

ぎっくり腰と違い肩こりについては、原因も対策も知られている。
肩こりの原因は僧帽筋を動かさないことで、肩こりの対策は僧帽筋を動かすことである。
要はそれに尽きるのだが、これだけではいかにも無愛想なので、以下少しくわしく説明してみたい。

●肩こりの原因は僧帽筋の等尺性収縮

ウィキペディアで「肩こり」の説明を見ると、
「この症状に対する原因には諸説あるものの、確定的な診断方法や治療法はなく、腰痛などと並んで不明な点がとても多い疾患となっている」
と断った上で、有力説として、
「一説では、同じ姿勢をとり続けるなどして頭や腕を支える僧帽筋やその周辺の筋肉(肩甲挙筋・上後鋸筋・菱形筋群・板状筋・脊柱起立筋)の持続的緊張によって筋肉が硬くなり、局所に循環障害が起こる。それによって酸素や栄養分が末端まで届かず、疲労物質が蓄積しこれが刺激となって肩こりを起こすと考えられている」
と紹介している。

筆者もこの説に同意する。

肩こりに代表される筋肉の「こり」は、その筋肉が恒常的な等尺性(isometric アイソメトリック)収縮を強いられることが原因で発生する
等尺性収縮とは、筋肉が伸び縮みすることなく、引っ張りの力だけを発揮している状態だ。
たとえば重い荷物を持ってじっと立っているとき、体はどこも動いていないが、荷物の重さを支えるために腕や肩、背中などの筋肉が力を使っている。

一般的な筋肉の使い方は、引っ張りの力を発揮して筋肉の長さを縮めることだ。
筋肉を縮める使い方に比べ、縮めずに力だけを使っている等尺性収縮の状態では、筋肉は短時間のうちに疲労してしまう。
それは筋肉には本来、ポンプのように周辺の血流を促す機能があるのに、等尺性収縮ではその血流促進機能が働かないためだ。

●筋肉の血流促進機能

たとえばダンベルを持ってヒジから先を曲げる動作(アームカール)を行うと、ダンベルを上まで持ち上げたとき、上腕の二頭筋は丸くふくれている。
ふくれた状態では筋肉の断面積が増え、筋組織全体の体積も大きくなっている。筋肉がふくれる過程では、動脈を通じて外部から筋肉内に血液が送り込まれ、筋肉内に張り巡らされている毛細血管の中に流入していく。
このとき筋肉の外側では、膨れ上がった筋肉によって血管が圧迫される。それによって静脈血が心臓に向かって押し流されていく。

上腕二頭筋がふくれた状態から今度はダンベルを下ろしていくと、ヒジの角度が開くにつれて二頭筋は引き伸ばされて細くなり、体積も小さくなる。ふくらんだときに動脈から筋肉内に流入してきた血液は、今度は筋肉の外の静脈に押し出されていく。
逆に筋肉の外側では、ふくれていた筋肉による圧迫がなくなるために組織がふくらみ、動脈から血液が流れ込んでくる。
筋肉はこのようにして、伸び縮みするごとに自らの内部の血液を入れ替え、周辺の組織の血液の流れも加速している。この血流によって、エネルギーと酸素を消費した筋肉内に新たに栄養と酸素が送り込まれ、運動で発生した老廃物も除去されていく。

こうした筋肉のポンプ作用は、特に足で顕著とされる。ともすれば重力で下に溜まりがちになる血液を、足の筋肉を動かすことによって心臓まで送り返しているのだ。
海外旅行で飛行機に乗り、座席に長時間座り続けた際、ヒザから下がむくんでくるのを感じた人は多いだろう。
歩行したり立ち上がったりといった足の筋肉を伸縮させる運動を長時間しないでいると、下肢の筋肉のポンプ作用が働かず、血液が重力で体の下部、つまり足に溜まってきて、むくんでくる。
「足は第二の心臓」と言われるゆえんである。

●血流が促進されない等尺性収縮

等尺性収縮の場合は、一般的な運動と違って筋肉の形状が変化しないため、血液の流れが促進されることがない
収縮を続けている筋肉内ではエネルギーと酸素が消費され、また疲労物質が排出され続けている。にも関わらず血液の流れが十分でないため、運び入れられる栄養と酸素が不足し、老廃物も除去しきれずに筋肉内に溜まっていく。
結果、筋肉は急速に疲労していくことになる。

筋肉とは別に、血管それ自体にもポンプ機能がある。
血管は神経からの信号を受けてリズミカルな収縮を行い、血管内の血液を押し出して自ら流れを作り出しているのだ。
しかし筋肉が等尺性収縮によって血液中の酸素やエネルギー源を消費し、疲労物質が蓄積した状態になると、血管自身の収縮も止まってくる。エネルギー源も酸素もないので、収縮を続けられなくなるのだ。
こうして血流が滞る。

組織が健全な状態では、内部に無数にある毛細血管が血液の循環に十分な断面積を保っている。こうした組織では、どこか一ヶ所を外から指で押してやると、圧力を受けてすぐに血液が周囲に押し出される。指を離すと、すぐに周囲から血液が戻ってくる。
触って柔らかく、弾力のある状態だ。

血流が滞ると、血管は周囲の組織からの圧力を血圧で跳ね返すことができなくなり、血管自体が圧迫されて細くなってくる。
毛細血管の断面積が縮小すると、流れようとする血液への抵抗が大きくなり、指で組織を押してもスムーズに血液がそこから流れ出していかなくなる。このため押したときに「固い」と感じることになる。
押した指を離したときも、血管が細くなっているため、周囲から血液が戻ってくるまで時間がかかる。弾力がなくなってしまうのだ。

健康な状態なら弾力のあるはずの首や肩の筋肉(僧帽筋)が、肩がこっている人では固くこわばって感じられるのは、このためだ。
この状態を「こり」と呼んでいるのである。

●なぜ肩はこりやすいのか

全身に数ある筋肉のうち特に首や肩の筋肉、つまり僧帽筋がこりやすいのはなぜだろうか。

「肩は腕というおもりをぶら下げており、その重みで常に緊張を強いられる状態にあるため、疲れやすい」
とされる。
上体を起こした状態では、腕の重みを僧帽筋が首の側から引っ張って支えている。つまり僧帽筋は日常的に等尺性収縮を強いられている、こりやすい筋肉なのだ。
女性だと「重いコートを着ると肩がこる」という人も多い。これは腕の重さに衣服の重さが加わることで、僧帽筋の負担が増すためである。

「姿勢がよくないと肩こりが起きる」ことも知られている。
これは頭の重さの影響だ。
背中を丸めアゴを突き出して、頭の重心が体の真上より前に来るような姿勢をとると、頭は放っておくと前に転がり落ちてしまう状態になる。
このときは首の後ろ側の筋肉、つまり僧帽筋が頭を後ろから引っぱって止めている。この場合も僧帽筋は等尺性収縮を強いられることになる。
体を丸めた姿勢を続けていると、首の後ろがこってくるのはこのためだ。

●肩こり予防のために心がけること

以上からおわかりのように肩こりの予防は、
・よい姿勢を保つこと
・僧帽筋を動かすこと
がポイント
となる。

よい姿勢とはこの場合、
「肩の上に頭が自然に載っている」姿勢をいう。
背中を丸めるよりは伸ばすほうがよく、アゴを出すよりは引き気味にしたほうがよいが、あまりしゃちほこばると僧帽筋を緊張させることになり、かえって肩がこってしまう。
首回りから力を抜いても、頭が肩の真上にあればいい。
よい姿勢を維持する上で効果的なのが、体幹を鍛え腹圧を上げることだ。

肩を回したり両手を頭上まで持ち上げたりといった肩まわりの運動も有効だ。
繰り返すことで僧帽筋が伸縮し、組織内の血液循環が活発になって、血管が広がり、こりがほぐれてくる。
また運動によって僧帽筋が鍛えられると筋力に余裕が生まれ、これまでと同じ負荷がかかってもこりにくくなる。

肩こり対策の運動として推奨されているのが、水泳だ。
筆者も推奨したい。
クロールや平泳ぎ、背泳など何種類かの泳ぎ方を組み合わせることにより、僧帽筋だけでなく三角筋や肩甲挙筋など肩回りの筋肉全般を満遍なく運動させられ、鍛えられる。
週に何度か泳いでいれば、肩こりとは無縁でいられるだろう。
水泳に限らずエアロビクスやダンスなどで腕を肩より上に上げる動きも肩こりの予防になるし、ラジオ体操でも効果はある。
要は僧帽筋を動かすことで、そうした動きならなんでもよい。

●なぜ指圧やマッサージが「こり」に効くのか

筋肉の「こり」を治すのに指圧やマッサージが有効であることは、よく知られている。
指圧やマッサージでは手を使って患者の組織をゆっくり押し、ついで力を抜くことを繰り返す。
押すことで組織が圧迫されて血液が静脈に流れ出し、力を抜くことでふくらんで今度は動脈から血液が流れ込んでくる。
汚れた水を吸ったスポンジを、流水の下でギュッと握り、また開くようなイメージだ。繰り返すことでスポンジの中に溜まった汚水が押し出され、きれいな水に入れ替わってゆく。
指圧やマッサージの場合も、溜まった老廃物が押されて流れ出ていく血液とともに組織から除かれ、流れ込んできた血液とともに新たな酸素と栄養が組織に供給される。
血流が生じたことで血管内の圧力が高まって血管も本来の断面積を取り戻し、組織の血液循環がよくなって、押したときに柔らかく、弾力のある感じになってくる。

ただ指圧やマッサージで一時的に組織をほぐしても、何もしなければその後また血流が滞り、血管が圧縮されて組織が固くなってしまう。
マッサージは対症療法としては有効だが、肩こりの根本解決にはならないということだ。

●肩こり予防体操

毎日何時間もデスクワークを続けるような仕事は、肩こりを招きやすい。
筆者のような物書きはその典型で、同業者には肩こりや腰痛、痔等に悩む人が少なくない。座りすぎと運動不足の結果である。
筆者自身も人に肩をもんでもらうと、「固いですね」と言われることが多い。
ただ毎日肩こり予防のための体操をやっており、おかげでこれまで肩こりに悩まされたことはない。
参考までに筆者がやっている体操の内容を紹介しよう。

1.平泳ぎのように頭の真上に両手を突き出し、そこからゆっくり左右に広げていく
2.バタフライのように体の斜め下に両手を突き出し、そこから大きく円を描いて頭の真上まで両腕を持ち上げていく
3.腕をだらんと垂らしたまま、両肩を車輪のようにぐるぐる回す。まずはクロールと同じように、背中側で持ち上げ、前側で下ろす。腕だけでなく肩甲骨をしっかり動かすことを意識する
4.同じく腕をだらんと垂らしたまま、今度は背泳ぎと同じように、前側で持ち上げ、背中側で下ろす方向で肩を回す
5.両手を伸ばして床と平行になるよう肩の高さで左右にいっぱいに開き、腕を伸ばしたまま体の前方で両手をパンと打ち合わせ、その反動で腕を伸ばしたままできるだけ後ろに引く。打ち合わせるときは左右の肩甲骨の間を広げ、後ろに引くときは肩甲骨同士を近づけることを意識する。
6.腕をだらんと垂らした状態から、脊椎を中心に体をねじって回転させ、それに引っ張られるように腕を水平方向に振り回す。時計回り、反時計回りを交互に行う

筆者の場合、以上の1~4までの運動を各30回、5、6の運動を10回、毎朝行っている。
電子書籍では写真入りで紹介しているので、興味のある方はご覧いただきたい。

これらは肩こり予防のための運動で、現に肩がこっている人がこうした運動をやっても、その場で肩こりが解消するわけではない。
むしろ最初にやったときには「肩回りにどんよりした重さを感じる」と顔をしかめる人が多い。ものの1、2回腕を回しただけで「きつい」といってやめてしまう人もいる。
血流が落ちて組織が固くなった状態で急に運動すると、細くなっている血管に大量の血液が流れ込むことになる。慣れていないと、気持ちよさを通り越して違和感を感じてしまうようだ。

この現象は長い時間正座した後で立ち上がったときに似ている。
長時間正座すると下肢が体重で圧迫されて血管が押しつぶされ、ヒザから下に血が通わなくなってしまう。その状態から急に立つと、つぶされていた血管に一気に血液が押し寄せてくる。
結果、組織がふくれ上がり、筋膜にテンションがかかって痛覚神経を刺激し、「痛てて」と叫ぶことになる。

別に上で紹介した体操でなくともいいので、肩こりを治したい人は毎日何かしらの運動で僧帽筋を動かしてやることだ。
体操も最初はきついと感じても、毎日やっていると1週間もするうちに楽になってくる。
気づくと肩こりも消えているだろう。

  ≪