(本稿は2008年5月に公開した記事に加筆修正したものである)
目次
●赤ちゃんの「首が座る」ことの意味
最近は赤ちゃんの動きを大人が真似て運動する「赤ちゃんトレーニング」というものがあるようだ。
この記事はそれとは違い、「子育ての一環として大人が赤ちゃんを補助し、運動させることで成長を助けてあげよう」という内容で、娘が赤ん坊だった頃の筆者の体験からきている。
生まれて何ヶ月か、赤ちゃんは何かしてほしいことがあるときはひたすら泣き、仰向けのまま手足をばたばたさせている。
言葉がしゃべれないので、お乳が欲しい時や、ウンチをした時に泣くのはわかるのだが、特に理由がなくてもむずがって延々と泣いている。
これがうるさいのは、みなさんご承知の通り。
「赤ちゃんは泣くのが仕事」という言葉にもある通り、きっと赤ちゃんにとってはそれも必要なことなのだろう。
「そうは言っても、もうちょっとなんとかならないのか」
と考えていた矢先のこと。
義母がふと、「泣くのは運動なのよ」と口にしたのを聞いて、「待てよ」と思った。
赤ちゃんは自分では寝返りも打てない状態から、まず首が座り、寝返りを打つようになり、這い這いし、立つまでになってゆく。
それは要は、筋肉が発達していくということではないのか――と思い至ったのである。
首が座るというのはつまり、背筋や腰筋群、僧帽筋が発達して、頭をしっかり支えられるようになること。
寝返りはそれが一歩進んで、体幹の筋肉が発達し、自分で体を回転できるまで力がついたいということ。
這い這いができるようになるとは、そこからさらに上腕筋や大胸筋、腹筋、大腿筋が発達していった結果と考えられる。
●赤ちゃんは運動するために泣いている
逆に見れば、赤ちゃんは自分の体の筋肉を発達させるために、「仰向けになって手足をじたばた」しているのではないか、と推察できる。
真っ赤になって体を突っ張ったり、手足を動かすことで、赤ちゃんは自分で自分の筋肉を鍛えているのだ。
その意味でまさに、「泣くこと=運動」なのである。
もし赤ちゃんが一日中寝ていて何の運動もしなければ、筋肉は発達していかない。
筋肉が発達しなければ、いつまでたっても首も座らず、寝返りも打てず、這い這いもできないということになってしまう。
だから赤ちゃんは特に何もしてほしいことがなくても、むずがって泣き続けているのだと考えると、納得がいく。
しかし……
「首や体幹の筋肉を発達させるための手段」という視点から見ると、仰向けになって手足をじたばたさせることは、あまり効率のよくないトレーニング方法である。
空中で手足を動かすだけでは、各筋肉に十分な負荷がかからない。
考えようによっては、赤ちゃんはそれがもどかしくて泣いているのではないか、とすら思えてくる。
では、赤ちゃんにとって発達が必要な筋肉を、適度な負荷を与えることによって、より効率的に発達させてやったらどうだろう。
結果として、「泣く時間が少なくてすむ」「適度に疲れてぐっすり眠り、夜泣きしなくなる」「首がすわったり、はいはいするまでの期間が短くなる」といった効果が期待できるはずである。
●3種の赤ちゃんトレーニング
ということで、妻と娘が実家から自宅に戻ってきたの機会に、筆者が独自に考えた「赤ちゃんトレーニング」を始めることにした。
内容は3種。
まず仰向けの状態で大人の指をつかませ、それをあちこち動かして、腕の筋肉を鍛える。
あきると手を放すので、そうしたらやめる。
また同じ状態で両足の裏に大人の掌を当て、交互に動かして大腿部と臀部を鍛える。
これは楽しいようで、いつまででもキャッキャッと笑いながら続けるので、適当なところで切り上げる。
続いて、
両脇を大人が手で支え、指で後ろから軽く頭を支えつつ、立たせる。上の写真である。
これは全身運動で、首から足首まで鍛えられる。疲れると足の力を抜いて座り込んでしまうので、そうなりかけたらやめる。
最後に、
うつ伏せにし、その状態で足の裏に掌を当てて動かす。このとき赤ちゃんは両手をついて体をそらし、頭を上げようとする。
これによって下半身の他、背筋、大胸筋、上腕筋などが鍛えられる。下の写真である。
うつ伏せにされると、はいはいしたいと思うらしく、しばらくもがいている。
しかし筋力が足りないため、うまく体が起こせない。
放っておくとそのうち「わーん」と泣き出してしまうので、そうなる前にやめる。
●むずかることがなくなった
妻は最初「赤ちゃんにそんなことさせるなんて」と眉をひそめていた。
しかし赤ちゃん自身はこうした運動が大好きで、足の裏に掌を当てて動かしてやると大喜びするし、立たせてもらうのもすぐ大好きになって、思いっきり伸びをしたりしていた。
効果は大きく、意味もなくむずがって泣くことがほとんどなくなった。
もちろんお乳が欲しいときや、ウンチをして気持ち悪いときは泣くし、ベビーカーで連れ出されて環境が変わったり、放っておかれてさびしくなったときも泣くが、そういうときはしばらくすると泣きやんで寝てしまう。
夜泣きすることもなくなった(といっても3時間置きに起きてお乳をねだるのは変わらないが)。
一度、2日ほどトレーニングしなかったら、てきめんに寝つきが悪くなり、一晩中夜泣きして夫婦ともまいってしまった。
以後は毎日、ちょっとずつやっていたが、心身共にとても良い影響があると感じた。
おそらくトレーニングの強度や時間が適切であれば、赤ちゃんはむずがって長時間泣く必要がなくなるのだ。
そうなると親も楽だし、赤ちゃんにとってもその方が気持ちが良い状態なのだ。
筆者の知る限り、医師にも育児の専門家にも「赤ちゃんに運動させるべき」と言っている人はいないようだ。
おそらく「赤ちゃんに運動させたらどうなるか」と考えたこと自体ないのだろう。
実際に試してみれば、赤ちゃんを一人で泣くに任せておくより、親が安全に気を配りつつ、適度な負荷を赤ちゃんの筋肉に与えて発達を促してやるほうが、はるかに合理的だと実感できるはずだ。
筆者が「赤ちゃんにも運動が大切」と提唱しても、実践する人は少ないだろう。
だがいずれアメリカあたりで同じことを考える人が出てきて、首のすわらない時期の赤ちゃんにも軽いトレーニングをしてあげることが、世界の常識になっていくのだろうと思う。