「ぎっくり腰」とは「大腰筋がつった」状態である

腰の骨格と筋肉

●「ぎっくり腰」とは「大腰筋がつった」状態のこと

ネット上の医学記事では「ぎっくり腰の痛みの原因ははっきり分かっていない」という説明が多い。
実際には「ぎっくり腰とは、「大腰筋がつった状態」のことである。
筆者がこの結論に至った経緯については、下の写真のような電子書籍の形でまとめたので、興味のある方はご覧いただきたい。
本記事はこの電子書籍の一部を切り出したもので、話が長くなるので筆者の腰痛体験や推理の過程は省いている。

最初にぎっくり腰の発症機序について説明しよう。

大腰筋は人体の中でも最大の長さを持つ筋肉で、背骨の前側から内臓の後ろを通って骨盤や大腿骨とつながっている。
人間のメインな神経は脳から脊髄に行き、背骨の前側の隙間から出て、いったん大腰筋を経由してから弓状にカーブしてあちこちの方向に伸びている。
大腰筋がつると、収縮した筋肉が神経群の湾曲したところを強く引っ張るので、神経末端の痛覚受容体にテンションが加わり、背中全体が強烈に痛む。
しかも最初の痛みが刺激となってさらに筋肉が収縮し、それでさらに神経が引っ張られて、という悪循環にはまるため、放置すると腰から背中にかけてのあまりの痛みで身動きもできなくなってしまう。

「筋肉がつった(筋痙攣)」とは医学的にどのような状態であるのか、よくわかっていないようだ。
わかっているのは疲労や運動不足、加齢、寒さなどで筋肉の血行が悪くなると発生するということ。痙攣している間、筋電位に独特の興奮状態が観察される。
ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)がつるのが「こむら返り」、大腰筋がつると「ぎっくり腰」、心臓の筋肉がつるのが「心臓麻痺(心室細動)」である。
心臓麻痺が最悪で、放置すると死んでしまう。ぎっくり腰では死ぬことはない。
おそらくそれが医学の世界でぎっくり腰の原因究明が進んでいない理由なのだろう。医学は人の命を救うことを最優先に発達してきた学問だからである。

●「きた」と思った瞬間にストレッチする

個人でできる「つり」への対策としては、血行を改善して痙攣を防止することと、運悪くつってしまった場合には、できるだけ早く問題の筋肉をストレッチ(伸ばす)してやることである。
なぜストレッチすると「つり」が治るのか。これも理由ははっきりしない。
ただ経験的に、つったときはその筋肉を引き伸ばすことで痙攣が収まることが知られている。
太股の前部がつった場合は患者をうつ伏せにして、治療者がつった足のカカトを持って尻に着くぐらいまで曲げてやり、大腿前部の筋肉(大腿直筋、内側広筋など)を伸ばす。
ふくらはぎがつった場合は逆に患者を仰向けにして、つった足を持ち上げて伸ばしながら爪先をヒザの方向に曲げてやり、アキレス腱から腓腹筋にかけてを伸ばす。
サッカーの試合の中継では、試合終盤に足がつった選手のふくらはぎをチームメイトが伸ばしている光景をよく目にする。

ぎっくり腰の場合は大腰筋を伸ばすことになる。
大腰筋は背骨の前側にあり、縦方向に長く伸びている筋肉なので、腰を前に突き出し、背中を後ろに反らすことでストレッチすることができる。
立ったままでは難しいので、うつ伏せになって行うとよい。

ぎっくり腰では、「あ、きた」と思った瞬間、大腰筋がつり始めているので、以後の悪循環にはまらないよう最初の段階でストレッチして、それ以上の収縮を防ぐことが決定的に重要になる。
具体的にはすばやく床にうつぶせになり、腰を床につけたまま腕を床に突っぱって腰を反らすことで、大腰筋を伸ばす(写真)。

強烈に縮もうとする筋肉を無理やり引き延ばすので苦しいが、これをやっている間はそれ以上の収縮は起きない。苦しいからと言って腕を曲げて床に胸がつく状態になると、たちまちまた腰がつり始める。
で、あわてて伸ばす。そのうち、また苦しくなって胸をつく。またつる。
だいたいその繰り返しになってしまうが、我慢してストレッチを続けていると、やがて痙攣が収まってくる。

●急性期には冷やし、収まってきたら温める

筋肉がつったときの応急処置としてもう一つ広く知られているのが、「アイシング(冷やすこと)」である。
大腰筋は体の中心にあって背骨と内臓に前後から挟まれているため、冷やすことは難しいのだが、インターネット上の百科事典「ウィキペディア」の「アイシング」の項には、
「ぎっくり腰では周辺の筋肉全体が広い範囲にわたって筋スパズムを起こしている可能性が高いため、肩から胸の下に枕などを入れた状態でうつ伏せに寝て、腰全体をアイシングする。アイシング後に同じ箇所を温める方法(後述のコントラスト)をとるとさらに有効である。」
と記述されている(太線は筆者)。

どなたが書かれたものか存じ上げないが、納得できる処置であり、おそらく現場の方が実際に行って効果を確認した上で記載したものだろう。
まず胸の下に枕を入れた状態でうつ伏せに寝ることで、腰が反る姿勢をとることができる。両腕で突っ張ることに比べると反りが弱いが、腕が疲れることがないので長時間続けることが可能だ。
加えて腰全体をアイシングスプレーや保冷剤を包んだタオルなどを使って冷やすことにより、ぎっくり腰の強烈な痛みは確実に和らぐ。

ウィキペディアに書かれている「コントラスト」とは、つってしまった筋肉を冷やした後、今度は逆に温める処置である。

ストレッチやアイシングで痙攣が落ち着いてきたら、患部(腰)を温めて血行を回復させるために、風呂に入るとよい。
この時もまだ体を前に丸めるとつり始める恐れがあるので、背中を後ろに反らせた、そっくり返った姿勢を維持しつつ風呂に入る(入りにくいが、腰を丸めてお風呂に入ると、逆に悪化してしまうので注意)。
腰の筋肉をストレッチした状態で体が十分温まってくると、急性の痙攣は収まっていく。
症状がひどいときには冷やし、収まってきたら温める」ことが、ぎっくり腰に対する基本的な対応となる。
これら一連の作業は、つり始めの時にやるかやらないかで全く予後が変わってくるので、がんばって腰を伸ばしてほしい。

出だしにこうやって対策することで以後の経過はかなり良くなるが、それでも腰に違和感が残ることが多いだろう。
整体の世界では「ぎっくり腰の原因は骨盤の歪(ゆが)みにある」という考えが支配的である。筆者流の言い方をすれば、「骨盤が歪むことでそこにつながっている大腰筋の『つり』が誘発され、また大腰筋がつることで骨盤が強く引っ張られて歪む」ということだ。
ぎっくり腰の再発を防ぐためにも、各種の治療院(後述)で骨盤調整の施術を受けたり、日常的にストレッチしたり、ゴムバンド運動(後述)を行うなどして、骨盤の歪みをとり、大腰筋の血行を改善させることをお勧めする。
軽ければ数日でほぼ元の、ぎっくり腰をやる前の状態に戻るはずだ。

ストレッチを主体にぎっくり腰を治す治療法として、ニュージーランドで生まれた「マッケンジー法」がある。

●仙腸関節を鳴らす、伝統的なぎっくり腰治療法

ぎっくり腰の治療法として整体の世界でよく知られているやり方は、骨盤と背骨のつなぎ目である仙腸関節に外から力を加えて、「ポキッ」という音が出るように動かしてやることだ。
一般的には患者を床に横にして、術者が上から一方の手で患者の肩を押さえながら、もう一方の手で上になった側の骨盤に手を当て、体重を乗せて下にずらすように施術する(写真)。

腰痛治療を謳う民間の整体院は多くがこのやり方を採っている。
腰痛治療を前面に打ち出している整体の流派である自然良能会(筆者は一時ここに通っていた)には、その他に足で骨盤を押して力を加える独自の治療法がある。
残念ながらどちらも、自分で自分に施術することはできない。
自然良能会は直接的な治療の他、先に触れたゴムバンド運動の指導も行っている。
ゴムバンド運動はアメゴムのチューブを腰に巻きつけた上で大きく腰を回すもので、自分一人ででき、ぎっくり腰の予防やぎっくり腰後の違和感からの回復に効果的だ。

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仙腸関節を動かす治療法として最も進歩しているのは、カイロプラクティックだろう。
カイロプラクティック(以下カイロ)とは、19世紀終わりにアメリカで生まれた手技療法である。
カイロでは、20世紀初めにはトムソンテーブルという治療台が開発され、安全確実に仙腸関節に力を加えてぎっくり腰を治療する標準的なメソッドが確立されており、YouTubeでも治療の様子が紹介されている。

仙腸関節をパキッと鳴らすことでぎっくり腰が収まる理由は、はっきりしない。
つった筋肉をストレッチするのと同様、「こうすると収まる」ということが経験的にわかっているということだ。
一般的な整体やカイロプラクティックは保険が効かないため、治療費が高くつくのが難点。一度矯正してもしばらくすると元の状態に戻ってしまうため、何回か続けて通う必要もある。
といっても初回で1万円程度なので、痛みをがまんしているよりははるかにましといえる。

整体院と違って整骨院は保険が適用されるが、整骨院の多くはマッサージと電気治療しかしておらず、それではぎっくり腰は治らない。
ただし中には勉強熱心な院長がカイロなどを学んで、低価格でぎっくり腰の治療をしてくれるところもある。
運良くそうした整骨院が見つかったら、価格的には一番お得だろう。

●完治のポイントは仙腸関節の変位の修正

音を鳴らさない骨盤調整(手技やストレッチにより仙腸関節の変位を矯正し骨盤の形を整える)だけでも、ぎっくり腰からの回復には効果がある。この場合は仙腸関節を強く押して音を鳴らしたときのような、その場で「効いた!」という感覚はないのだが、骨盤をあるべき状態に戻しさえすれば、数週間過ごすうちに腰の痛みは自然と消えていく。
逆に仙腸関節を動かす等の療法で大腰筋のつりを落ち着かせても、骨盤のゆがみがそのままだと腰回りに違和感が残ってしまう。骨盤調整については整体院やカイロプラティックなど多くの治療院が謳っているので、探せばどこかしら見つかるはずだ。

西洋医学系の理学療法としてもマニュピュレーション(手技)によって骨盤のずれを元に戻す「AKA(arthrokinematic approach 関節運動学的アプローチ)」という治療法があり、一般のクリニックや病院にも徐々に普及してきている。
整体で一般的な強い力を加えて仙腸関節を鳴らすやり方とは異なり、症状の原因になっている関節部の変位をミリ単位で矯正する繊細な手法である。
「民間療法はどうも信用できない。やっぱり病院がいい」
という人は、予めネット等でAKAを打ち出しているクリニックを探して受診するとよい。
かつてぎっくり腰は「病院では治らない病気」の典型だったが、AKAの普及で様相が変わってきた。この治療法を開発した博田博士の功績は偉大であると思う。
ただ病院で治療するといっても保険は適用にならないため、医師に施術してもらうと整体院以上に費用がかかる場合もある。受診の前に確認しておくとよいだろう。

このAKAについても、スクールに通って手技を習得し、比較的低料金で施術してくれる整骨院もある。
もっとも整体やAKAといった手技による治療は施術者の技量次第で効果が大きく違ってくるため、安ければいいというものでもない。困るのは誰の腕がよくて誰がよくないか、実際に施術してもらうまでわからないということだ。

●一人でも多くの人を救うために

先に「ぎっくり腰も心臓麻痺(心室細動)も、こむら返りなどと同じく筋肉の『つり』が原因」と述べた。
心室細動に陥った患者に対しては、AED(自動体外式除細動器)で心臓に電気ショックを加えて回復を図る。
AEDは19世紀末にスイスで行われた、心停止した犬の心臓に電気ショックを与えたところ心臓が動き出したという実験をヒントに、アメリカで開発された機器である。
なぜ電気ショックで心室細動が治るのか、理屈は今もわかっていないようだ。わからないまま、とにかく効果がある治療法として世界に普及した。心室細動では心筋に独特の電気的な興奮が観察されるが、電気ショックを与えるとそれが消えることがわかっている。
電気ショック療法は心室細動に対してと同様にぎっくり腰にも有効と思われるが、今のところそのための治療機器が開発されたという話は聞かない。医療機器メーカーにはぜひ検討をお願いしたい。

繰り返しになるが、ぎっくり腰対策では治療施設に行く前、「あ、きた」と感じた瞬間にすばやくストレッチすることが最優先である。
最初の対応を怠ると、痛みと「つり」の連鎖反応が始まってしまい、激痛に苦しむことになる。ひどい場合は大腰筋の収縮によって仙腸関節がずれてしまい、立ち上がることすらできなくなる。
最初の瞬間にストレッチして悪化を防ぐことで、予後ははるかに楽になる。

筆者は2002年頃から「ぎっくり腰とは大腰筋を中心とする腰椎前側の筋肉群がつったこと」と言い続けている(覚えにくいので最近は「大腰筋」と略している)のだが、この記事を書いている2019年の時点でも、遺憾ながらまったく認知されていない。
ネットで調べても「原因不明」と書かれていたり、ぎっくり腰で病院に行っても湿布薬を出すぐらいしかしてくれなかったり、「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」などと診断され、見当違いの治療をされて、まったく回復しないというケースも少なくないようだ。
もうこんな状態はいい加減にしてほしいと思う。
新たな治療機器の開発を待たずとも、「ぎっくり腰とは大腰筋がつったこと」という理解が広がるだけで、毎年多くの人が激痛から救われるはずだ。
本記事をごらんになったみなさんには、できるかぎりこの知識を拡散くださるよう、切にお願い申し上げたい。

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