成年後見の申し立ては、慎重の上にも慎重に(中編)

(承前 「成年後見の申し立ては、慎重の上にも慎重に(前編)」より)

●闇に包まれる専門職後見人報酬の実態

後見人申立業務に対して異常な高額請求が行われていることを先に指摘した。しかし実際には入口で必要な費用より、長期間にわたるランニングコストのほうがはるかに高額である。
一部の家庭裁判所では後見人の報酬の目安を公開しているが、実際に専門職後見人がどの程度の報酬を得ているのかという実態は、闇に包まれている。

後見人は年に一度、家庭裁判所に定期報告を行う。定期報告と同時に「報酬付与の申立て」も行い、それを受けて家庭裁判所が報酬額を決定し、後見人は決定された金額を被後見人の口座から自分の口座に振り込む。
後見人は被後見人の口座から自由に引き落としできるので、右から左の作業である。
このとき後見人が何について報酬を請求し、いくら報酬が支払われたかを知るのは後見人本人と家庭裁判所しかいない。
後見人の報酬額が、被後見人の家族に知らされることはない。報告義務がないのだ。
家族が家庭裁判所に対し、後見人の後見報告についての「閲覧謄写請求」を行っても、家庭裁判所側はまったく開示しようとしないか、見せてもほとんどの部分を黒く塗りつぶしてくる。
後見人報酬や後見活動の実態を被後見人の家族に対して隠匿しようとすることについて、専門職後見人と家庭裁判所は「ぐる」といってよい。

後見人の報酬額が被後見人の家族に明らかになるのは、被後見人が死亡した後である。親なり夫なりが亡くなって、その遺産を相続するときになって初めて、「こんなに取られていたのか」と愕然とすることになる。

後見の杜」サイト内には、弁護士、司法書士などの専門職後見人がついた場合の費用を試算できる「後見人に払う費用概算シミュレーター」が置かれている。このシミュレーターではいくつか質問項目に答えることで、およその後見費用が算出できる。
そこで提示される金額は、「資産1000万円以下なら月額2万円」という規定から想像する額に比べ、桁違いに高い。実態を知る「後見の杜」では「専門職後見人がとる報酬の総額は概ね、車より高く家よりは安い程度」と家族に伝えているという。被後見人の資産額が多かったり、年齢が若かったりすると、専門職後見人の最終的な受取額が1000万円以上に達するケースもある。

なぜ後見人への報酬がそれほど高額になるのか

実は成年後見人には月額で定められた報酬以外にも、一件ごとに報酬を請求できる項目がある。専門職後見人はそれらの項目を使い、自らが受け取る報酬を最大化しようと努めているのだ。

●不動産を売却したがる専門職後見人

専門職後見人の報酬の内訳を見てみよう。
まず月額で支払われる基本報酬がある。
前述のように、後見人の基本報酬は被後見人の金融資産の額で決められる。
被後見人に不動産で3000万円、預貯金や株式などの金融資産で6000万円の資産があるという場合、金融資産6000万円が報酬額の基準となり、公開されている家庭裁判所の報酬の目安から計算すると、月額5万円ないし6万円となる。
ただしここにも抜け道がある。
「身上監護等に特別困難な事情があった場合」は、基本報酬額の50%の範囲内で報酬が増額されることになっているのだ。
基本報酬が月額6万円で、「特別困難な事情」が認められれば、報酬額は5割増しの月額9万円。年間で100万円を越えることになる。

また後見人は基本報酬以外に「付加報酬」を受け取ることが認められている。
その中でも問題が多いのが、不動産の売却に関わる報酬だ。
後見人は被後見人の所有する居住用不動産、つまり家屋を、売却することが認められている。
このときに報酬が発生するのだ。
「療養看護費用を捻出する」等の名目で、被後見人の自宅を、たとえば3000万円で任意売却した場合、40万~70万円の付加報酬が得られる(横浜家庭裁判所の例示による)。1億円の物件なら300万円もの報酬が認められる。都内であればそれぐらいの価格の家屋は少なくないから、専門職後見人にとってはおいしい収入源だ。
不動産売買では、実際の売却は不動産業者が行い、後見人の仕事は「売ってくれ」と指示するだけだ。それだけで数百万円が転がり込んでくる。必然的に専門職後見人は被後見人の家を売り払おうとすることになる。

専門職後見人が被後見人を介護施設に入居させ、それまで住んでいた家を二度に分けて売り払ってしまったケースがあった。
庭だけなら家を壊す必要がないので、最初に庭だけを切り離して売り、次に残りの土地と家屋を売り払ったのだ。後見人はその都度、報酬を得ている。
被後見人が所有する家屋の売却に際して後見人は家族の了解を得る必要はなく、売却後に家族に報告する義務もない。こうして家族の知らない間に後見人の手で家が売られ、実家が取り壊されたり、実家の庭にアパートが建ったりといった事態が頻発している

被後見人名義の別荘なども売却の対象だ。
ある女性が、家族で使っていた別荘に久しぶりに行ったら、知らない人が住んでいて仰天した、というケースがあった。
住んでいた人から「250万円で買った」と言われたのだが、地元の不動産屋で時価を聞くと「750万円程度」とのことだった。「家族に無断で、安く売り払うとは何事か」と、後見人の弁護士に抗議したが、「家庭裁判所の許可を得ている」で片付けられてしまった。

家庭裁判所では、後見人が売却しようとしている不動産の適正価格をチェックすることはない。いくらで売り払おうと後見人の腹一つということだ。後見人が不動産業者と共謀してわざと安値で売却し、多額のキャッシュバックを懐に入れたとしても、一切チェックされることはない。
また後見人の署名で成立した売買契約は所有者本人が行ったと同様に有効な契約なので、家族がいくら抗議しても後から取り消すことはできない

●その他の付加報酬

不動産の売却以外にも専門職後見人に付加報酬が認められているケースがある。
一例が遺産分割調停を行った場合だ。
遺産分割で被後見人が遺産を相続するケースとしては、配偶者が亡くなった場合や、子供のいない兄弟が亡くなった場合がある。
横浜家庭裁判所が例示しているケースでは、
「被後見人の配偶者が死亡したことによる遺産分割の調停を申し立て、相手方の子らとの間で調停が成立したことにより、総額約4000万円の遺産のうち約2000万円相当の遺産を取得させた場合、55万円~100万円の付加報酬が認められる」
となっている。
ここで大きな疑問が湧く。
上の例で配偶者が亡くなって遺産の半分を相続するというのは、法定相続の規定そのままだ。「調停」などと称しているが、後見人は実際には何もしなかったといってよい。
法定相続であれば遺産分割協議書は必要ない。しかしこのケースで専門職後見人は、「遺産分割の調停を申し立てた」という形をつくるために、わざわざ遺産分割協議書を作成している。
それだけで報酬として100万円を被後見人の財産から取り上げることができるのである。

保険金の請求でも40~50万円の報酬が認められている。
たとえば被後見人が入院した際、医療保険の請求を行い、300万円ほど保険金が下りたとすると、後見人はそのうち何十万円かを報酬として横取りしてしまう。
たかだか保険金の請求程度で数十万円もの報酬が認められているのは、専門職後見人ぐらいだろう。

成年後見人の業務は、控えめに言っても楽なものだ。
選任されて最初の報告では財産目録や収入、支出の予定表を作成する必要があるが、以後の定期報告では、前回の報告時と比べて大きな変化がなければ、年に1回、家庭裁判所に「後見等事務報告書」を提出するだけ。A4で2枚の報告書のチェック欄にチェックを入れ、預金通帳のコピーを添えるだけで済んでしまう。
もし被後見人が介護施設に入っていれば、支出はその施設への支払いだけとなるので、すべき仕事などないも同然である。
それでも報酬額は被後見人の資産に応じて決まっており、死ぬまで毎年、業務内容には不相応な額の報酬をもらい続けることができる。
仕事に困っている弁護士・司法書士にとって、これほどおいしい仕事はない。

一般的な社会制度は、政府や自治体が一定程度の補助を入れていることが多く、使ったほうが得になるものだ。しかし、こと専門職後見人については、いったん選任されたら最後、被後見人は自らの財産からさまざまな報酬の名目でお金を奪われ続けることを覚悟しなければならない。

●激増する成年後見監督人

専門職後見人同様、ここ数年で急激に数が増えてきた職種に「成年後見監督人」がある。最近は法定後見人に対して10%以上の割合でつけられるようになっている。
成年後見監督人は被後見人の管理資産が大きく、親族後見人がついているケースをねらって選任される。また後述する「任意後見人」にも、必ず成年後見監督人がつけられている。

成年後見監督人の業務は成年後見人の職務をチェックすることで、その報酬は大まかに成年後見人の報酬の半額とされる。つまり被後見人の金融資産が5000万円あれば、月額3万円程度を徴収する。
それまで親族が何年間も無報酬で後見人を勤めてきて、何の問題もない場合でも、家庭裁判所が一方的に成年後見監督人を選任してきて、「後見人は被後見人の資産から年に36万円支払え」と命じられるのである。

実際の成年後見監督人の仕事といえば、後見人から年に1回提出される後見等業務報告書のチェックをするだけ。実働で年30分程度だろう。時給に直せば1時間72万円となる。これこそ家庭裁判所による弁護士、司法書士への利益誘導そのものといえる。
費用とは別に、後見監督人が後見業務に介入してくると、親族後見人にとっては大きな負担となる。
親族後見人が、後見監督人としてつけられた弁護士に邪魔されて適正な介護体制をとれなくなり、他の弁護士に依頼料を払って争うことになったケースもある。

●後見人に家計を締め上げられる家族

専門職後見人の問題点は、その業務にかかる高額の費用だけではない。
被後見人の資産が専門職後見人に管理されることが、深刻な問題を家族にもたらす。
切実なのが、妻が専業主婦で、夫婦の財産のほとんどの名義が夫のものとなっている状態で夫が認知症となり、生活費を銀行から下ろせなくなって成年後見を申し立てた――といったケースである。
こうした場合の夫の財産は、実際には夫婦の共有財産といってよい。
しかし多くの場合、後見を申し立てた妻本人は後見人として認められず、専門職後見人をつけられることになる。
そしてひとたび専門職後見人が入ってくれば、被後見人とされた夫の財産は全て妻の手から奪い去られてしまう

家庭裁判所に選任された専門職後見人は、被後見人の財産がいくらか、自分がいくら報酬を取っているか、妻にも子にも教えない
妻からすれば、家の財産がいくらかも教えてもらえず、夫の預金や年金収入から自分に渡される生活費さえ、一方的に選任された後見人の言うがままに決められてしまうのだ。

家計費の一部を使い、自分の名前で株式運用をしていた女性が認知症となり、その夫が介護することになったケースがある。
介護費用がかさみ、夫は「そういえばあいつ、株をやっていると言っていたな」と思い出して証券会社に電話してみた。だが「資産内容についてはご本人以外に教えられません。成年後見人をつけてください」と言われたため、後見の申し立てを行った。
夫は自分が後見人になるつもりでいたが、家庭裁判所に棄却され、全く面識のない弁護士が後見人に選任され、月数万円の報酬を妻の資産から支払うことになった。
夫はこの弁護士に「妻の株式の資産はいくらか」と訊いたが、「教えることはできない」と断られてしまった。
夫は唖然としたが、現在の後見制度ではそれが普通なのである。
それどころか、被後見人の資産額を訊ねた家族に対して、
「あんたには関係ない」
「死んだら見せる」
などと平然と言い放つ、驚くほど横柄な弁護士、司法書士が少なくない。

「後見の杜」には、被後見人の家族の家計に関して、耳を疑うような専門職後見人の態度が多数報告されている。
東日本大震災で家が被災し、家族がバラバラになり、老親も被後見人として介護施設で暮らしていた一家がいた。
この一家では、東京電力から補償金が入り、やっと家族がまた同じ屋根の下で暮らせることになった。
ところがそれに対し親の後見人である弁護士が、「これまでより生活費が高くなる」という理由で反対してきたのだ。
「家庭裁判所も承認している」と言うのだが、家庭裁判所に確認すると、そんな承認は誰もしていないことが判明した。家族が話し合いのために弁護士の事務所を訪れると、居留守を使い、はては警察を呼ぶ有様だったという。

こうした例は枚挙にいとまがない。
「自分の分の財産をはっきりさせたい? それなら離婚するんだな」
と言い放たれた事例。
「あんたの生活費に月5万くれてやる」
と言われた事例。
家族で被後見人を旅行に連れていこうとしたら、
「認知症なのに旅行なんか必要ないだろう」
と拒否された事例。
お墓参りで被後見人のためにタクシーを手配したら、
「墓なんてどうせ死んだら行くんだから行く必要ないだろう」
と言われた事例。
母の後見人になった弁護士に、「大分の実家に母を連れていくので旅費をください」と頼んだところ、「行く必要はない」と一蹴された娘さんもいる。
一方的に選任された専門職後見人の暴言に震えるほど怒り、「この歳になってこんな仕打ちを受けるなんて」と悔し涙にくれている女性たちが、日本全国に数えきれないほど存在する。

専門職後見人の不当な仕打ちに家族がいくら腹を立てても、後見人はなんの痛痒も感じない。「家族に対する態度が悪い」とか「暴言を吐いた」といった理由で専門職後見人が解任されることはないからだ。
専門職後見人が家族の生活費を不当に締め付けるという非道に対しても、家族側には対抗する手段が何もないのだ。

専門職後見人の報酬額は被後見人の資産額によって自動的に決められ、後見人が被後見人やその家族に会いに行っても行かなくとも変わりはない。
このため専門職後見人の多くは、家族はおろか被後見人に対してもほとんど顔も出そうとしない。その様子は「後見業務に時間を割けば割くほど、実質時給が下がってしまう」と考えているかのようだ。
やるのは年に1度の家庭裁判所への定期報告と、報酬額の引き落としだけ。10年間で1000万円もの報酬を受け取りながら、その10年間、一度も被後見人に会っていないという弁護士もいたという。
家族から見れば、専門職後見人は被後見人の資産も明かさなければ、そこから報酬をいくら取っているのかも明かさず、会いにすら来ない。専門職後見人の後見業務は家族にとって、何をしているのか全くわからないブラックボックスといってよい

「成年後見の申し立ては、慎重の上にも慎重に(後編)」に続く)

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