親指シフトとキーボード 2

「親指シフトとキーボード 1」より

●「ですます体」が打ちにくいNICOLA配列

前回、親指シフトを導入して、最初のうちはおとなしくNICOLA配列を使ってみたものの、やっているうちに次第に、「これは(自分にとって)ベストな配列ではないのでは?」という気がしてきた……という話をした。
今回はその詳細である。

NICOLA配列で第一に不満だったのが、かな文字の中でも頻出度が特に高い、「か、た、に」が、ホームポジションキーに割り当てられていないことだった。
一方でNICOLA配列でホームポジションに割り当てられている「あ、お、ぽ、み、せ」などは、筆者の文章スタイルでは頻出度が低く、好位置に置く必然性が感じられない。

またライターは「ですます体」の文章を書く機会が多いのだが、NICOLA配列ではそれが打ちにくい。
「ですます体」で文章を書く場合、「す」は、できたらホームポジションに入っていてほしいぐらいの頻出文字なのだが、NICOLA配列では左手中指の下段にあり、しかも「て」が同じ左手中指の中段にあるため、「です」と入力しようとすると、タイピング上の速度低下要因の一つである、下段交じりの同指連続打鍵を強いられてしまう。
同様に「ですます体」で多用する「ま」も、「います」「いました」などの言い回しで連続して使うことの多い「い」と同じ指の別のキーに割り当てられており、やはり同指連続打鍵を強いられてしまう。
「です」でも「ます」でも文末の「す」の後には「。」が来るわけだが、NICOLA配列では中指で左下段を押した後に左上段を小指で押すことになり、これも打ちにくい。
「でしょう。」「であろう。」など文末に比較的多い「う。」も、NICOLA配列ではやはり同指連続打鍵となっている。

NICOLA配列で次に不満だったのが、「ぁ、ぃ、ぅ」などの「捨て仮名」と呼ばれる小さなかな文字の配置がばらばらで、覚えにくいこと。いずれもめったに使わない文字なので、配置に規則性がないとなかなか覚えられない。
拗音と促音の入力で使う「ゃ、ゅ、ょ、っ」がどれも片手同時打鍵で入力するようになっているのも、使いにくいと感じた。

もう一つ気になったのが、半濁音の配置である。
NICOLA配列では、濁音については「キーを打つ手とは逆の手の親指との同時打鍵(クロス打鍵)で入力する」という規則があり、すべて清音と同じキー内の下段に割りつけられている。これはわかりやすい。規則さえ頭に入っていれば、一文字ごとに場所を覚えずに済むのだ。それに比べ、「ぱぴぷぺぽ」の半濁音の配置には規則性がまったくない。
半濁音は富士通の親指シフトでは、「shift+清音(はひふへほ)」で入力していた。しかしNICOLA配列ではshiftキーは使用せず、その代わりに空いていたキーの下段に場当たり的に割りつけられている。これを一つひとつ覚えなくてはならない。しかし半濁音も捨て仮名と同じく使用頻度が低いので、なかなか覚えられず苛立つことになる。

もちろん、キーの位置は最終的には運動感覚により記憶されるので、視覚的に配置が揃っていようがバラバラだろうが、一度身につけてしまえば関係ない。むしろNICOLA配列がそうであるように清音と濁音を関連づけたりするほうが、各文字の使用頻度に応じた最適な運指を実現する上で不要な制約であるとも考えられる。
それは頭ではわかっているのだが……なんというか、美しくないんだよねえ。
その他、取材記事でも小説でも多用する「」、()、?も打鍵しにくい最上段にあるし、!などはそもそもキーの割り当て自体がない。

●オリジナル配列の作成へ

「なんとかならないのか、これ」
NICOLA配列で親指シフトの練習を続けるうち、筆者の苛立ちは高まってきた。
実はその気になれば、なんとでもなるのである。気に入らないのだったら、気に入るようにキーの配置を変えてしまえばいいのだ。キーリマップソフトを使えば、キー配列の変更は自由自在なのだから。
多少ためらったものの、一人でぶつぶつ言っているのも非生産的だし、「専用キーボードを使うわけじゃなし、みんなも右に一列ずらすとか、好きにやってるわけだし」と考え、自分独自のオリジナル配列づくりに取り組むことにした。
NICOLA配列のタイピングも十分に身についていない状態で、「自分独自の配列」という泥沼に入り込んでしまったのである。

新配列、名前がないと不便なので、以下では「kubota配列」と呼ぶことにする。
その後、「QWERTY配列」にならい、左上段の文字列をとって「つき配列」と呼ぶことにしたのだが、文字の並びが決まったのは最後の最後で、それまでは「ああでもない、こうでもない」と動かしていたから、その最中は別の呼び方をしなくてはならない。

新配列は「NICOLA配列の気に入らない点を直す」というコンセプトで作ったので、ベースとなったのはNICOLA配列である。
これをどう動かすか。
第一の基準は、「使用頻度の高い文字ほど打ちやすい位置に置く」ということ。
まずはネット上の「かな頻度表」を参考に、日本語の文章で最頻出するとされる文字群「い、し、か、う、ん、た、て、の、と、に、れ」を、ホームポジションキーに割り当てることに決めた。
筆者的にはむしろ、NICOLA配列でなぜそうなっていなかったのかが不思議だ。
前述のようにNICOLA配列では最頻出文字のうち「か、た、に」がホームポジションから外れているのだが、あえてそうしたのは何か筆者が気づいていない理由があってのことだろうか。

最頻出文字に続いて「ですます体」で多用する「ま」「り」「る」もホームポジションに入れることとし、筆者的に好位置に置く必然性が乏しいと感じた「あ、お、ぽ、み、せ、き」などは、上下に追い出した。

「使用頻度の高い文字ほど、打ちやすい位置に置く」という原則を掲げても、それだけでは整理しきれない。
打ちやすい位置の基準としては、大まかに「ホームポジション>上段>下段」という区分はあるわけだが、たとえば「右手中指上段と右手薬指上段と左手中指上段のどこが一番打ちやすいか」と考えても、正直、大差ないとしか思えないし、文字の使用頻度自体、頻出度中程度以下の文字では、少し文体が違えば簡単に順位が入れ替わってしまう。
そこでホームポジション以外の場所では、「あ行」なら「あ行」、「か行」なら「か行」というように、とくに理由がない限り、同じ行の文字はまとめて配置することにした。
こうした方針で配列を見直した結果、「あ、え、お」「。、」が右下段、「き、く、け、こ」「み、む、め、も」が左上段、「さ、す、せ、そ」「や、ゆ、よ」が右上段、「ひ、ふ、へ、ほ」が左下段に固まることになった。
その他、筆者が多用する記号キー 「」、()、? などは、NICOLA配列における最上段から、より打鍵しやすい位置に移動。!も空いたキーに割りつけた。

さらに「半濁音は清音と同じ手の親指との同時打鍵(ストレート打鍵)で入力する」という独自の規則をつくり、「ぱぴぷぺぽ」は「はひふへほ」と同じキー内に割りつけることとした。
捨て仮名についても、「ぁぃぅぇぉ」のうち「ぁぃぇぉ」はそれぞれもとのかなと同じキー内に起き、清音と濁音の関係と同様にクロス打鍵で入力する。
この工夫により半濁音と捨て仮名のキー配置がNICOLA配列より覚えやすくなっている。
例外は「ぅ」で、これは「ヴ」とともに「っ」のキー内に置いている。「ぅ」も「ヴ」もほとんど使わない文字なので、使用頻度が高くホームポジション上に置かざるをえない「う」と同じキー内に置くのは不合理、という判断からだ。
半濁音は全て左手側、捨て仮名は全て右側に置かれ、どちらも下段に集まっている。いずれも使用頻度の低い文字なので適切な配置と思う。

拗音は、日本語では「きぎしじちにひびぴみり」のどれかの後に、小さな「ゃゅょ」を加えて表記する。kubota配列では「ゃゅょ」を右手ホームポジション横に一つにまとめて配置。「きしちにひみり」すべてを左半分に配置し、かつ拗音の後に続く率が圧倒的に高い「う」についても左半分に置くことで、すべての拗音を「左→右→左」の順で両手を交互に使う「左右交互打鍵」で入力ができるよう工夫している。

もっとも「ゃゅょ」を左手側に移し、片手の異指を3連続で使う、いわゆる「アルペジオ打鍵」で入力したほうが早いという考え方や、いちいち捨て文字を入力せずに、2文字の同時押し(「し」と「よ」を同時打ちしたら、「しょ」とする、など)のほうがよいという考え方もある。そのへんは好みの問題だろう。

NICOLA配列で気になっていた「です」「ます」「います」については、「て」「ま」がホームポジション左手側に入り、「す」が右手側上段に来たことで、全て「中・上段」にまとまり、かつ「左→右→左」の順で両手を交互に使う「左右交互打鍵」で入力できるようになり、打ちやすさが向上している。

「っ」は、右上段に単独打鍵として配置した。ホームポジションからは外れたが、単独打鍵になった分、筆者的にはこちらのほうが打ちやすい。
長音「ー」は、NICOLA配列では左手下段にあり、同時打鍵で入力となっていた。kubota配列では右手下段に移動し、やはり同時打鍵入力としている。打ちやすさではNICOLA配列と差はない。

数字については、「Shift+文字キーでテンキー風に数字を入力する」という方法を採用している。
配列は英字配列の右手側に示したものと同じだ。
これにより数字入力のために最上段を使う必要がなくなったため、最上段の単独打鍵には漢数字を割り付けることとした。
筆者は仕事で漢数字を使うことが多く、この方式は使ってみたところ便利だったので、今もそのまま続けている。

現行キーボードのキー配列の欠点の一つが、「Bs」「Enter」「Del」という文章入力で頻用する機能キーがホームポジションから遠い位置に置かれていること。これはタイピング上の大きな速度低下要因になっている。
これを改善するため、小指ホームポジションに隣接する三つの文字キーに「Bs」「Enter」「Del」を割り付けることにした。
さらにこの3つのキーは、単独打鍵では機能キーである一方、同時打鍵では「・」「『」「』」「←」「↓」といった記号を入力するよう割り付けしてある。矢印記号は日本語の文章では意外によく使うのだ。
それらと「Enter」の間の2キーは、単独打鍵では上下の方向キーとして使うようになっている。また「無変換」と「かな」キーに左右の方向キーを割り当て、ホームポジションから他の指を離さずに親指を動かすだけで方向キーを入力できるようになっている。とくに左右の方向キーは文字入力中に多用するので、近いところにあると便利だ。

文字キーの配列見直しと同時に、機能キーの割り付けも変更した。
筆者的にまったく使っていなかったCapsLockキーは、キーリマップソフトで「かな」キーに変更した上でgoogleIMEで機能変更し、文字入力中でなければ「半角/全角」キーと同じくIME切替を行い、文字入力中には「変換候補」選択キーとして使っている。
Tabキーには文字入力中及び変換中に「カタカナ変換」の機能を割り付けた。
「半角/全角」キーは「Esc」キーに機能変更した。これにより「Bs」「Enter」「Del」とともに「Esc」もホームポジションに近くなり、使いやすさが増した。

以上のような方針でNICOLA配列のキー配置を見直し、実際に使ってみて、同指連続打鍵が多発したり、頻出する文字の組み合わせの打鍵が遠く離れたキーを飛び回るといった問題点や違和感が出たときには、その原因を考えて配置替えを行った。
一つのキーを動かすと、玉突きで他のキーまで動かすことになり、その結果、また新たな問題が出てくる。おかげで最終的に配列が確定するまで、うんざりするぐらい何度も何度も――実際には何十度も――機能キーもふくめ、キー配置の再考を繰り返すことになった。
2014年春から配列見直しの作業を始め、毎日のように配列を変更し続け、ようやくほぼ満足できるキー配列に辿り着いたのは、翌年のことだった。その間、配列を変更するたびに指使いが変わり、配列を覚え直すので、いつまでたってもタイピングが早くならない。
筆者はライターとして仕事で日常的に大量の文章を入力しなくてはならないので、配列いじりのためにタイピング速度が低下している間は非常に苦しく、「ああ、こんなこと始めるんじゃなかった」と後悔しながらの作業となった。

以下は変更を始めてから2ヶ月ほど経ったときの、途中の配列の一つ。

この配列の場合、頻出度の高い「なか(なが)」「さい(ざい)」「との(どの)」「され」「いれ」などが、同指による連続打鍵になっている。頻出度としてはさほど高くないものの、ですます体で比較的多い「う。」も、これはNICOLA配列でも同じだったが、やはり同指連続打鍵のままである。特に「である」体の場合、「~してしまう。」の最後が左小指の三連打になり、気になる。
だがこの状態から、どこかのキーを入れ替えて上の問題を解決しようとすると、もっと困った問題が出てきてしまう。たとえば、「さい」を打ちやすくするために「さ」とその横の「せ」を入れ替えると、今度は「さい」よりも頻出度の高い「せい」が、同指連続打鍵になってしまう。「なか」をなくすために「か」と「と」を入れ替えると、より頻出度の高い「など」「こと」が、同指連続打鍵になってしまう――という具合だ。

この段階からまたあれこれといじり、そのうち配列を変えてもあまり良くならなくなったので、「まあ、このあたりが妥協点かな」と思い、いったんいじるのをやめにしたのだが、最近になってまた少し変え、下の配列になって現在に至っている。
最終的に「なか」「され」「いれ」「との」はなんとか解消したが、「さい」は結局、変えられなかった。

●多種多様な日本語入力用の独自配列

こうした作業をしていると、「配列選びの基準は本当にこれでいいのだろうか」「世の中には、他にどんな配列があるのだろうか」といったことが気になってくる。
ネットで調べてみたところ、世の中には実にたくさんのかな入力のための独自配列があることがわかった。
たとえば、shiftキー(小指シフト)による「新JIS配列」。
親指シフトの「飛鳥配列」「さら配列」。親指シフトに加え、文字キー同時押しで拗音を入力する「蜂蜜小梅配列」。
中指や薬指をシフトキーとして使う「月配列」「花配列」「新下駄配列」「月見草配列」など…

ネットで拝見すると、それぞれにみなさん大変な時間と労力を使って、最適の配列を見出すべく改良を続けている。文字の頻出度と続くことの多い文字同士の運指を最適化するのはもちろん、3字あるいは4字の連続する文字列の組み合わせの頻度を調べ、そこまで考慮して文字配置を計算したりしている。飛鳥配列など、10年かけてキー配列を研究したとのことで、使用方法やキーボード別にさまざまなバージョンがある。
正直のところ筆者には、とてもこの人たちと同じだけの努力を重ねる覚悟はない。

NICOLA配列のベースとなった富士通オリジナルの親指シフトにしても、最終的に今の形に決まるまでには、大変な数の組み合わせを試し、多くの試用者の意見を聞いたはずである。開発者の神田泰典氏は、新聞の取材に答えて「各文字の出現頻度はもちろん、文字の連なり方の特徴などまで、徹底的に日本語を解析、どの文字配置が指の動きを最小限にできるかを考えた」と述べておられる。本来、素人が勝手に配列をいじったりして、良くなる道理はないのである。
しかし実際には、筆者が自分の文章を書くために使う限りでは、今の自分で考えた配列のほうがずっと使いやすいと感じる。
書く文章は人により千差万別であるし、使いやすい指や運指も、おそらく人によって少しずつ違うのだろう。その意味では「使う人の数だけ最適配列がある」のかもしれない。
なので筆者は、「自分の考案した配列は他のどの配列より優れているから、ぜひみなさんも使ってみてほしい」などと言うつもりはない。
初めて親指シフトを試す人であれば、やはりまずはNICOLA配列を試してみるのが無難だろう。そこでもし不満があれば、自分にとって最適のキー配列や入力方式を自己責任で探してみればいいのではないかと思う。

●英文入力用のDvorak(ドボラック)配列

さて、このようにして日本語の入力については独自の親指シフト配列に変更したわけだが、英文についてはどうするか。
よく知られているように英文入力に関しては、日本を含む世界のほとんどの国で決まった配列が使われている。
上段の文字キー列が左から「QWERTY」で始まるので、QWERTY(クワーティー)配列と呼ばれている。

機械式タイプライター時代から引き継がれている配列なのだが、実は文字の頻出度と打ちやすさが一致しておらず、あまり合理的ではないと言われている。
なぜ合理的でない配列がスタンダードになっているのだろうか。
『キーボード配列 QWERTYの謎』(安岡孝一 安岡素子 NTT出版)という本によれば、19世紀の終わり、タイプライターの発明者(の一人)であるクリストファー・レイサム・ショールズが、銃器メーカーであったE・レミントン・アンド・サンズ社が生産するタイプライターの商用機の一号機のために「とりあえず」考えた配列だったそうである。
ショールズは時間をかけてよりよい配列を考えるつもりで、実際に別な配列を考えてレミントン社に持ち込んだりしているが、商品化されずに終わり、結局、一番最初の配列がそのままタイプライターのスタンダードとして君臨することになったという。

20世紀に入り、教育心理学者のドボラックという人が、アルファベットの出現頻度に基いた新配列を考案した。開発者の名前をとって「Dvorak(ドボラック)配列」と呼ばれている。筆者がお世話になっているblechmusikさんのキーリマップアプリ「DvorakJ」も、そこから名前を採ったものだ。
こちらは合理的にできていて、それほど普及はしていないものの、タイピングコンテストで優勝するような人の多くはこの配列を使っているらしい。
左手側のホームポジションに母音が、右手側のホームポジションに頻出子音が集中しているのが特徴だ。
実はタイプライターの発明者の一人であるショールズが改めて考えたという配列でも、母音が右手側に集中する形になっていた。

「ドボラック配列のほうが合理的」と聞くと「だったらそっちを使おうか」という気になってくるが、筆者の場合、そもそも仕事で英語を使う機会はほとんどないので、配列を変えてもあまり意味がない。
第一、日本語の親指シフトも身についていない状態で英語配列まで変えてしまうのは、無謀というものだろう。
というわけで、しばらくの間はおとなしく英文については一般的なQWERTY配列を引き続き使っていたのだが、結局は誘惑に勝てなくなり(笑)、まだ親指シフト用の独自配列も決まらないうちに英文用の配列もドボラック配列に変えてしまった。
そして前出の記事でも書いた通り、このドボラック配列に対しても細かな問題点が気になり始め、やがて独自配列に変えてしまった。
それが以下の配列。
上段左の文字列をとって「yx配列」と呼んでいる。

この配列はかなり長いこと使ったのだが、ピリオドとカンマの位置がなんとなくしっくりこず、あるとき思い立って右手側と左手側を入れ替えてしまった。
それが下の配列。
上段左の文字列をとって「CL配列」と呼んでいる。ピリオドとカンマの位置がQWERTY配列と同じになっている。
まあ、「だからどうした」という話なのだが。

この図もかな配列の図と同じく、キートップの中央上にあるのが単独打鍵で入力される文字となっている。普通のキーボードの表記とは違いアルファベットが小文字になっているのは、「キーの単独打鍵で入力されるのは小文字じゃないか。なのになぜキートップにあるのは大文字なんだ? 不合理だろう」と思ったからだ。
そしてキー内下寄り右側にあるのが、「変換キー」と同時打鍵で入力される文字で、大文字はここにくる(ただ煩雑なので大文字の場合は省略している)。
下寄り左側にあるのは、Shihtキーまたはスペースキーとの同時打鍵で入力される文字。
その中には数字キーも含まれている。

このように、親指シフトに適したキー配置になっているL100キーボードの利点を活かして、英字入力の際にも一つのキーを3通りまたは4通り(単独打鍵、スペースキーと同時打鍵、変換キーと同時打鍵、そしてシフトキーと同時打鍵)に使い、最上段を使わずに数字まで入力することを可能にしている。

日本では多くの人は、QWERTY配列を使ってローマ字入力していると思う。筆者も昔はそうだった。使っていた当時は「まあ、こんなものか」という感じで、それほど強い不満を持っていたわけではない。使い勝手という意味では、JISかな入力に変えてからのほうが使いにくくて不満だったくらいだ。要は問題意識がなかったのだろう。
しかし合理性を追求したさまざまな新配列のローマ字入力方式を知ってしまうと、QWERTY配列を使ってローマ字入力するのがいかに不合理なことか、よくわかるようになってきた。

QWERTY配列では、ローマ字入力で最もよく使う「A」「I」「U」「E」「O」の5つの母音が左右に散らばり、うち「A」以外の四つはホームポジションにはない。代わりに日本語のローマ字入力ではほとんど用いない「F」が左手のホームポジション、「J」「L」「;」が右手のホームポジションという、最高の位置を占拠している。また母音と同じ指を使うキーに、ローマ字入力で多用する「K」「M」「H」「N」などが配置されているため、同指連続打ちが多発する。長音記号に使う「-」などは、手の届きにくい最上段にある。
そもそもQWERTY配列というのは、本来の目的である英文入力用の配列としてさえ、あまり合理的ではない。さらにそれを言語体系がまったく違う日本語の入力用に流用しているのだから、無理が出るほうが当たり前なのだ。

英文用にDvorak配列を使っている人は、おしなべて日本語のローマ字入力にもDvorak配列を使っている。それだけでも入力効率が大きくアップするそうだ。Dvorak配列では左手側に母音が集中しているため、かな文字入力の際、「右手→左手→右手→左手」という左右交互打鍵が多くなり、入力がスムーズになるという。
ただそうはいっても基本は英文入力用の配列なので、ローマ字入力で使用するには不都合な点もある。たとえば、日本語の母音すべてが左手側にあることに加え、かな入力で子音の入力用に使う、「K」「Y」「P」がいずれも左手人差し指を使うポジションにあり、左手人差し指による同指連続打ちが続出する。また左右の手の使い方のバランスが悪く、全体として左手側の負担が大きくなりすぎるという問題もある。

●ローマ字入力用の独自配列

英文入力用配列とは別に、ローマ字日本語入力に特化した配列も種々考案されている。
たとえば、NTT電気通信研究所で考案された「SKY配列」。
これはDvorak配列とは逆に、右手側に「U」「A」「O」「I」「E」の5母音が、左手側にはローマ字入力で使用する子音すべてが、割りつけている。右手の余ったキーには「ai」「ou」などの連母音を当てている。
筆者的には、連母音を独立のキーに割り当てるのはいかがなものかと――まあ、キーが余ったからなのだろうが――思うが、それ以外は合理的な配列で、日本語入力に使うには、Dvorak配列より上ではないかと思う。

OSAMU HIRAIさんによる「KKGon配列」と「AKonD配列」も、やはり日本語入力用に考えられたローマ字配列である。Dvorak配列と同様、左手側に母音を置いている。特徴的なのは、母音側に「YA」「YU」「YO」のキーを置いたこと。これにより、「や」「ゆ」「よ」が単独打鍵で入力でき、かつQWERTY配列やDvorak配列では3打鍵必要だった拗音が、子音キーとの組み合わせで2打鍵で入力できるようになっている。これは優れた発想だと思う。また余ったキーの一部を方向キーに割り当て、「っ」にも独立のキーを割り当てている。
方向キーは文章入力中に多用するのだが、一般のキーボードではホームポジションから離れた位置に配置されており、使うたびに手がホームポジションから離れてしまう。これは日本語入力における問題の一つなのだが、この二つの配列ではそれが見事に解決されている。

これらの配列は一般のローマ字入力と同じ、子音→母音の逐次入力方式となっている。
1音2ストロークのリズム感が合わなくてわざわざ使いにくいJISかな入力に変えた筆者としては、今のところ導入する予定はない。しかし日本語入力をすることだけ考えれば、QWERTY配列はもちろんDvorak配列によるローマ字入力に比べても、明らかに入力効率が高いと思う。

「親指シフトとキーボード 3」

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