おいしいご飯の炊き方 1

(以下は2003年5月に公開した記事を再掲したものである)

炊飯器のコードが巻き戻らなくなり、「そろそろ買い換えかな」という感じになってきたので、試しに鍋でご飯を炊いてみた。
並行してネットで炊き方を調べてみたのだが、人により言うことが違うので混乱してしまった。
以下はその体験記。

●米が炊ける過程を観察する

厚手の深鍋(もともとは圧力鍋)に、耐熱ガラスの蓋をして、1~2合炊きにチャレンジ。
無洗米を使っているので、研ぎは省略。
最初に米を水に浸す。これに関しては、夏場で30分、冬場で1時間以上と、何を見ても書かれている。
問題は炊き方だ。
「はじめチョロチョロ、なかパッパ」
という言い伝えは知っていたので、何はともあれ、弱火-強火の順でやってみることにした。
幸いガラス蓋なので、中のご飯の様子が見える。
観察していると、

0.十分に水を吸った米は表面が白くなり、水も溶け出した米の粉で少し白くなっている。
1.温度が上がり出すと水が白濁し、米が水をどんどん吸い込んでゆく
2.水がほぼ米に吸われると、白いあぶくが出始める。ぐつぐついう沸騰音が大きくなる。あぶくは火力が強いとどんどん大きくなってゆき、それが蓋の口にかかると、白い煮汁が鍋から吹きこぼれる。
3.煮ているうちに、水分がさらに吸収されてあぶくが出なくなり、米の表面を白いどろどろした重湯が覆う。
4.重湯が乾いてきて、表面にあばたのような小さなクレーターができはじめる。この時、まだぐつぐついう音が続いている。
5.重湯のような白いどろどろした液体がほぼなくなり、ぐつぐついう音が消える。
6.それ以上加熱していると、鍋底に当たっている部分の米が焦げ始める。

ということがわかった。

●難しい消火のタイミング

上の焦げ始める状態に到る前、どろどろした液体がなくなった段階で、火を止めて蒸らしに入るわけである。
最初は消火のタイミングがわからずに、底の方を焦がしてしまったが、まあまあの味に炊けた。
2回目は焦がさないように早めに火を止めたら、今度は米の中に芯が残ってしまった。
「これぐらいが火の止め時かな」という感じが掴めてきたのは、3、4回失敗してからのことだ。

ただ、ガラスの蓋なら中の様子を見ていれば見当がつくのだが、中が見えない鍋の場合、沸騰音だけでぴったりのタイミングを見極めるのは難しそうだ。
慣れると湯気の量と匂いでもわかるそうだが、これも初心者には難しい。
となると、米と水の量をはかった上で、時間と火力を一定に決めてやることになるが、それでも気温や火加減などの影響で、毎回、微妙に狂うのは避けられないだろう。
結局ガラス蓋でない場合は、ときおり蓋をとって中を見てみるしかなさそうだ。

●重要な「蒸らし」と「かき混ぜ」

さて、炊き終わったら、「蒸らし」に入る。
蒸らしの時間は人によって言うことが違い、5分~10分という人もあれば、10分~15分、15分以上という人もいる。
ただし「蒸らしの際、蓋を開けてはいけない」ということは、共通して言われている。
例の「赤子が泣いても蓋とるな」という言い伝えだ。
また蒸らしが終わったらかき混ぜ、できれば木のお櫃(ひつ)に移し替えるのが望ましいようだ。
かき混ぜるのはご飯が互いに貼りついて固まってしまわないように空気を含ませるのと、水分を飛ばしてべたつかないようにするのが目的らしい。
これは炊飯器の使用説明書にも必ず書いてあるので、鍋で炊くときだけでなく、炊飯には必須の工程と思われる。
お櫃に移す理由はわからない。筆者はお櫃を持っていないので、やったことがない。

●火力の調整はどうあるべきか

さて、何度か失敗して、一応は鍋で炊けるようになったのだが、まだベストにはほど遠い状況である。
かの名作グルメコミック『おいしんぼ』に出てくるように、「一粒一粒の米がぴかぴかに輝いていて」云々という状態を作るには、どうしたらよいのだろうか。

改めてネットでご飯の炊き方を調べてみた。
すると意外にも、例の「はじめチョロチョロ」という炊き方は、ポピュラーではないらしいとわかった。
「あれは鉄の羽釜で炊く時の方法」
「今時、そんなことやっている人はいません」
というサイトが多く、あるレシピサイトの「基本の和食」というコーナーでは、
「鍋で炊く場合は、なるべく厚手の鍋を使い、蓋をして最初は強火で、沸騰したら吹きこぼれない程度の中火にし5~10分、次に弱火にして約15分炊き、再び一瞬強火にして水分をとばし、火を止めて10分間蒸らす。」
とある。
あるキャンパーさんのサイトでも、
「(沸騰させるまでは)いつも最高火力です」
「炭水化物は約90℃でアルファ化します。ここを弱火でやると、アルファ化に時間がかかるため、アルファ化したデンプンが水に溶けだして煮くずれを起こしてしまいます。
炊飯器のコマーシャルでも言っているように、「火力で勝負」だと思います。」
と言っている。

しかし、チョロチョロ-パッパ派の人もいる。
「米粒という固い固体は熱伝導が悪いから」
「水から弱火でゆっくりと加熱することで、米粒という固体の芯まで加熱するという目的を達成することが出来る」
と言う。

中間派(中火-弱火)もいた。
あるトンカツ屋さんがプロの土鍋ご飯の炊き方を教えているサイトでは、
「まず中火で沸騰させ、次に弱火で6分(ふきこぼれない程度の火加減)
仕上げは極細の火で4、5分で火をとめ蒸らします(15分前後)
これでOK! 美味しいご飯のでき上がりです」
とあった。

さらに弱火派(最初から最後まで弱火で炊く)もいる。
あるキャンプ用品メーカーのサイトでは、キャンプ用のコンロと、金属のカップ(コッヘル)を使って、弱火で炊くやり方を紹介している。
「最初から最後まで弱火しか使いません。
最初はフタをせずに沸騰させます。
沸騰したら箸等で時折中身をかき混ぜながら水分を飛ばします。
水分が飛んで米の粒が表面に見えてきたらフタをしてさらに3分程火にかけます。
ここで消火します。
ストーブを使う時間はトータルでも10数分と短めですがきっちり水につける時間と蒸らす時間をとれば大丈夫」
というもの。

●炊飯のメカニズムを考える

こうして見ると、火力も時間も、まさにバラバラである。
全体としては強火-弱火派がやや優勢のようだが、いろいろな意見があるので、筆者も迷ってしまい、自分なりに考えてみた。

経験的に、米は炊き損なうと芯ができやすい。
これはチョロチョロ派の人がいうように、米粒の中は熱伝導がよくなくて、芯まで加熱されにくい特性があることを示している。
これを防ぐには、米の芯の部分が一定時間以上、アルファ化に必要な温度より高温に保たれる必要がある。
つまり強火か弱火かというより、時間の問題だと考えられる。
ただしずっと強火で加熱していると、米の芯が十分な時間加熱される前に、米の表面の水分が飛び、特に鍋の底部の強い火力にさらされる部分で、焦げつきがでる恐れが強くなる。
従って、芯を作らず、米を焦がさずに炊きあげるためには、弱火が有利だと考えられる。

では、ずっと弱火だと何がいけないのだろうか。
これはキャンパーの方のサイトにあるように、表面の溶け出しが問題になるのだと想像できる。
お米はそのままでは水につけていても溶けないが、高温によってでんぷん質がアルファ化した米は、おかゆに見られるように、水に溶けてどろどろになってゆく。
従って米の表面がアルファ化してから、お湯にさらされる時間が長いと、米が煮くずれして、ニチャニチャした食感になってしまうと考えられる。
米の表面がお湯にさらされる時間が短いと、煮くずれがおきず、炊きあがりが美しくなるはずだ。
前出のキャンパーさんのサイトで、失敗談として、
「以前、ちょっと強火でやったらわずか15分足らずでご飯が炊き上がりました。ふたを取ると、艶艶のお米が見事に立っています。
やった~と思ったのもつかの間、ぽろぽろのご飯でちっともうまくない・・・う~ん、お米が立つのと味は比例しないようです。 」
と書かれていた。

強火で炊いた方が、水が早く米に吸収されたり、蒸発したりして、水分がなくなるまでの時間が短くなる。従って一見すると早く炊けるように見える。
そして炊く時間が短いと、でんぷんの溶け出しが少ないので、表面はきれいに仕上がる。
しかし芯の部分が高温になっている時間が不足するため、日本のお米特有の粘りや、もちもち感が出にくくなる。
逆に弱火で炊くと時間が長くかかり、表面がベトベトになりやすく、中もふやけた感じで歯応えがなくなってしまう、ということのようだ。

●水に浸す時間と食感との関係は

ただし炊きあがりの食感は、炊く前にどのくらいの時間、水に浸すかということにも関係しているようだ。
一般に水に浸す時間が短いと芯が固いポロポロのご飯になりやすく、長く浸しすぎると、ベトベトした仕上がりになる、とされている。(筆者の経験でも、その通りだった)
どうやら、長時間水を含ませた場合の方が、熱が芯まで伝わりやすく、アルファ化の進行が速まるのではないかと推測される。

水に浸す時間に関連して、サイトによっては、研いだ後に「ざるに上げる」というやり方が紹介されている。
これについて、ある旅館のサイトでは、
「家庭科の授業やおばあちゃんから「洗った後ザルに上げる」と習ったことのある方、これはお米の性質によって異なります。
コシヒカリはザルには上げないで下さい。
関西以西のお米は「硬質米」と言われ、お米自体が硬い性質を持ち、なかなか水に浸すだけでは白米に水気が染み込みません。そこで水洗いした白米をザルに上げて水を切ります。そうすると白米の表面がカサカサになりヒビ割れしたような状態になります。その後水を入れて炊きますが、ヒビ割れしている白米は水をほしがっています為にたくさんの水を吸い柔らかく炊きあがります。
新潟のお米は軟質米で元々柔らかい性質でザルに上げて炊くと必要以上に水を吸い込んでしまい、グチャグチャに炊きあがります。新潟や東北のお米を炊く時は水に冷やかしてから炊く事が美味しく炊きあがるという訳です。」
と説明されている。
なかなか納得のいく説明だ。

他に、「一度に炊く量はある程度多くないとおいしく炊けない」というのは、筆者の経験でもあり、多くの人が言うことでもある。
理由はよくわからない。納得のいく説明を見たこともないが、経験的には明らかだ。
今後の研究課題である。

●とりあえずの結論

以上を踏まえた上での、筆者の第一次結論。
最初に強火で後に弱火とするか、弱火から強火にするかは、実はさほど問題ではないのではないか。
というのも、強火派から中火派、弱火派まで、いろいろな人がいすぎるからだ。
明確な差がつくのなら、そんなに意見が分かれるはずがない。
それより、米が高温状態におかれている時間が問題のように思われる。
つまり、弱火で時間をかけすぎてもダメだし、強火で急いで炊きすぎてもダメ、最適な炊飯時間があるのだ、ということ。

最初、強火で一気に沸騰させた場合、水や米の表面は100度近くになっていても、米の芯の部分は十分に温度が上がっていないはず。
そのまま強火で炊いてしまうと、芯の部分が完全にアルファ化しないまま水分がなくなってしまうので、芯ができたり、粘りのないポロポロしたご飯になってしまう。
そこで途中で火を弱めるか、あるいは水の量を増やすことが必要となる。
弱火でじわじわ温度を上げてゆく場合、沸騰した時点で米の表面と芯の部分の温度差が少ないはずなので、沸騰してから芯までアルファ化するまでの時間は、強火の場合よりもむしろ少なくなるはず。
(ただし沸騰するまでに時間がかかるので、火をつけてからアルファ化が完了するまでの時間は、強火の場合より長くなる)
芯まで炊けているのに、水分を飛ばすのに長い時間かけていると、表面がベトベトした仕上がりになる。
そこで途中で火力を上げるか、あるいは水の量を少なめにする必要があると思われる。
要するに、強火から始めても弱火から始めても、どっちでもいいわけだ。

ただし炊きあがりの最後の時に限っては、強火だとタイミングを見極めることが難しく、焦げたり芯を作ったりしがちなため、弱火で観察した方が良さそうだ。

確認のために時々蓋を取ることは、加熱中であれば鍋の中の温度も気圧もすぐに元に戻るはずで、圧力鍋で玄米を炊いているとか、高地で低気圧の下で炊いているような場合は別として、さほど大きな影響はないと考えられる。
ただし火を止めて蒸らしに入ってからは、蓋を開けると温度が急に下がり、蒸らしの効果が得られなくなるため、蓋を取ってはいけないと考えられる。

その他、炊く前に水に浸す時間が短くなった時は、弱火で長めに炊いた方が良さそう。
逆に十分に水に浸した場合は、やや強火で短めに炊くと、表面がきれいに仕上がると思われる。

今後は以上の推察を元に、なお実験を重ね(つまり、お米を炊くということだが)、わかったことがあれば報告したいと思う。
以上。

「おいしいご飯の炊き方 2」へ続く。